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木枯らしに抱かれて…  作者: 土田なごみ
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第4話 秘密



―ピンポーン―



家のチャイムで、私は目覚めた。


リビングのソファーで、うたた寝をしてしまったらしい。


「亜澄。お母さん、ちょっと手が離せないの。出てちょうだい」


キッチンから、母の忙しそうな声がした。


「はぁい…」


ぼんやりしたまま、玄関のドアを開けた。



―ドキン!―



心臓が飛び出した。


そして、寝ぼけた頭が一瞬にして目覚めた。



どうして、野崎先生が家の玄関に立ってるの!?


家庭訪問なんて、あったっけ!?


「ご両親はいらっしゃるかな?」


いつも通りの、クールな表情の先生。



「どなたがいらっしゃったの?」


キッチンから、パタパタと母が出て来た。


「まあまあ、先生。娘がいつもお世話になっております」


先生と母は、互いにペコペコとお辞儀をしている。


その傍ら、私は状況が分からず、放心状態。



「突然ですが、お母さん。亜澄さんと、結婚を前提にお付き合いさせて下さい!」



私は、玄関で卒倒してしまった。



「ちょっと、亜澄!?しっかりしなさい!亜澄、亜澄…」


意識が遠退く中、母の声が小さくなっていった。



「…澄、亜澄!早く起きなさい。遅刻するわよ」



―ハッ―



キッチンから、母が叫んでいる。


……夢?


…に、決まってるよね。


こんな都合のいいシチュエーション、ある訳ないか。



でも…、ハートがとろけてしまいそう。


私は、まだ夢の続きの中にいるみたいに、幸せな気分だった。



―お付き合いさせて下さい、か…―



「うふふっ…」


部屋で一人、声に出して笑ってしまった。


我ながら不気味かも、私。



ふと、机に飾ってある写真立てに視線を移した。


校外授業の時に撮った、クラス写真が入っている。


私と真由美と沙也ちゃんは、大口開けて楽しそうに笑っている。


野崎先生は、左後ろの隅っこに写っている。


目を凝らして見ないと、先生の表情はよく分からない。


こんなに小さく写っている先生の姿でも、見ていると幸せになってくる。



また夢を思い出して、口元を緩めてしまった。




「亜澄ーーっ!」


「あっ、はーい」



クローゼットから制服を取り出して着替え始めた。


最近、ネクタイを絞めるのにもずいぶん慣れてきた。



今日の一限目、国語だった!


野崎先生の顔を見ると、にやけてしまいそう。


絶対、思い出しちゃうよね。


『お付き合いさせて下さい』って言葉…




「亜澄ちゃん、おはよ」


「あ、沙也ちゃん。おはよー」


学校前の桜並木道で、沙也ちゃんに会った。


桜の花びらも散ってしまい、すっかり葉桜になってしまった。


鮮やかな緑の葉が、気持ち良さそうに風に吹かれて喜んでいる。


校門まで、後もう少し。


私は自転車を引いて、沙也ちゃんと校門まで歩いた。



「亜澄ちゃん、何か良い事あった?」


私、まだウキウキしている。


「今朝、良い夢見たんだ」


「えー、どんな夢?」


「勿体ないから、教えな〜い!」


「あーん、亜澄ちゃんの意地悪ぅ!」


野崎先生の夢を見たなんて、沙也ちゃんには教えられない。


「ところで沙也ちゃん、今週から正式入部になるけど、どうする?」


私は話をそらした。


「ダンス部に決めたよ。亜澄ちゃんは?」


「私も!」



私がダンス部に入部しようとしたキッカケは、新入生歓迎会で見た先輩方のダンスだった。


目が離せなくなる程、凄くカッコ良かった。


沙也ちゃんがダンス部に入部しようとしたキッカケは、以前から体を動かす事が好きだったらしい。


中学時代は、新体操部に入部していたけど、高校にはなかったので、ダンス部に決めたそうだ。



私と沙也ちゃんは、学校の校門をくぐった。


「国数準備室に野崎先生がいるよ!こっち見てくれないかな〜」


真っ正面に、野崎先生の姿が見えた。


「そうだねー」


私には、素っ気ない言葉しか言えなかった。


私も、沙也ちゃんみたいに気持ちをストレートに出せたらいいのにな…



「自転車小屋、あっちだから置いてくるね。沙也ちゃん、先に教室に行ってて」


「うん、分かった。またね」


私と沙也ちゃんは別れた。



『ホントは、私も野崎先生が好き!』



ずっと、言いそびれている。


真由美にも、沙也ちゃんにも。



……違う。


言いそびれている訳ではない。


例え、過去にも未来にも、私の気持ちを伝えるチャンスがあったとしても…


野崎先生への憧れの気持ちは、誰にも言わずに、ずっと秘めていると思う。




中学生だった頃、二つ年上の先輩に憧れていた時期があった。


とっても大人っぽい、硬派な雰囲気の先輩。



下校途中、友達と一緒に先輩の後を追い掛けて、自宅を突き止めた事もあった。


体育祭や文化祭で、写真を隠し撮りした事もあった。


結局渡せなかったけど、友達とバレンタインチョコを買いに行った事もあった。


先輩が卒業する時、制服のボタンをもらいに行ったら、全部無くなっていた事もあった。


友達と、校舎の裏で泣いたっけ…




あの頃は“先輩が好き”というより、友達と恋心を共有するのが楽しかった。



今だって、沙也ちゃんと“片思いゴッコ”をしたら楽しいのかもしれない。


そう、一人で思い続けているより、ずっと楽しいかもしれない。


なのに、なぜ…?




図書室で“キュン”とときめいた、あの胸の切なさが忘れられない。


見つめているだけで、切なくなる。


ずっと、見つめていたい。


大好き…先生…

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