表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
木枯らしに抱かれて…  作者: 土田なごみ
2/15

第2話 恋の魔法

「上手く結べないなぁ…」


えんじ色のネクタイ姿が、くすぐったくて恥ずかしい。


ブレザーの制服に憧れて、この高校を受験したと言ってもいいくらい。


何だか、少し大人びた気分。




高校に入学したら、一番最初にしたかった事。


それは、いつもキツキツに縛っていた髪をほどく事。


風に揺れる髪が、耳元をくすぐるのが心地良い。


暖かな春風に、私の髪も心も踊っていた。



そして、二番目にしたかった事。


それは、素敵な彼氏を作る事。




「ねぇ、亜澄」


中学時代からの親友、真由美が、私の肩を突いた。


「N中から来た長谷川クン、カッコ良くない?」


真由美が、図書室の本の隙間を覗き込んで、向こう側を指差している。


「長谷川クン?」


私も、真由美と顔を並べて覗き込んでみた。


そこには、スラッと背の高い、顔立ちの整った男子がいた。


「真由美ったら、理想が高いんだから…」


「ね、イイ感じでしょ?」


「美形といえば美形なんだけどね…ちょっと軽そうじゃない?」


「そお?亜澄がパスなら、私狙っちゃおっかな〜!」


真由美は、ずっと長谷川クンを目で追っている。




「ふふっ…」


そんな真由美の姿を見て、私は思い出し笑いをした。


「どしたの?」


不思議そうに、真由美は振り向いた。


「今度こそ、彼氏とスケートに行きたいね」


「あぁ、その話!懐かしいね」



中学生の頃から、真由美と私は、ある誓いをしていた。


『女の子同士で、スケートには絶対に行かない!』




中二の冬。


クラスの同級生四人(全員女の子)でスケート場に遊びに行った時。


上手く滑れない私と真由美は、必死に手を握り合い、お互いの体に寄り掛かって、何度も氷の上に転げた。


周りを見れば、彼氏の腕にしがみついている女の子ばっかり。



「次は、彼氏と来ようね!!」



お尻が冷たくって、体中があちこち痛くって、半ベソをかきながら、二人で誓い合った。




「スケートが何だって?」



突然、大きな手にポンッと頭を叩かれた。


「きゃ…」


小さく叫んだ私は、首をすくめ振り返った。


副担任の野崎先生が、私達の後ろに立っていた。


「ムダ話はそれくらいにして、次に行くぞ」



―そうだった…今、校内見学の途中だったっけ―



「あー、びっくりした。亜澄、次だって。行こ」


「う、うん」



髪に、先生の手の感触が残っている。


そっと手で触ってみた。


私、何でドキドキしているの?




「亜澄ってば、早く!」


「あ…、今行く」


少し先を行く真由美に駆け寄った。



ほのかな煙草の苦い香りが、鼻先に残っている。


男の人のスーツ姿って、大人っぽくてステキだな…




「……私、彼氏にするなら年上の人がいいな…」



独り言の様に、思わず口からこぼれた。


「え!?野崎先生がいいの?」


「シッ!声、大きいってば」


慌てて真由美の口を両手で押さえた。


「そうじゃなくて、年上の彼氏だったら優しくって、甘えさせてくれて、守ってくれそうかな〜って」


私は、在り来りな“大人な彼氏像”を並べてみた。


「なーんだ、亜澄ったら先生が好みのタイプなのかって思っちゃったよ」


「そんな?まさか!」


おおげさに笑顔を作ってみせた。


「どっちかっていうと、先生は逆のタイプじゃない?無愛想で冷たそうって感じ?」


私は笑顔のまま、何も言わずうなずいてみせた。




―そうなんだよね―



野崎先生は、透明なバリアを張っているみたい。


自分の領域に他人が入ってくるのを拒んでいる、そんな雰囲気を持っている。



―キュン―



胸が切なく締め付けられる。



こんな気持ち、初めて…



恋の魔法にかかってしまったみたい。


冷たい雰囲気とは裏腹の、温かい手。


あの大きな手に触れられただけで、ときめいてしまったの?


こんなに簡単に、気持ちって揺らいでしまうの?




私、先生に恋してしまったみたい…

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ