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木枯らしに抱かれて…  作者: 土田なごみ
15/15

第15話 夢恋歌



  君をのみ


  思ひ寝にねし


  夢なれば


  わが心から


  見つるなりけり




「『あなたの事を一途に想って寝たから、あなたの夢を見たのでしょう―』」



休み時間に写した私のノートの訳を、真由美は読み上げた。


「うん、そうだな」


野崎先生が静かに言った。


ホッとした表情で、真由美が席に着いた。


それから、私と目を合わせ、口元で(ありがとう)と言っていた。


私も笑顔を返した。



野崎先生は、机に片ひじをついて、教卓の椅子に座っている。


長い足を邪魔そうに投げ出して、机の横で組んでいた。



「『恋する相手が自分の事を想っているから、自分の夢に現れるとも言うが―』」



それが、本当だったらいいのに…


野崎先生が、私の事を想っていてくれたら…



「『―私の場合はそうではない。だから夢に見ても慰められない』と、嘆きを込めている歌だ」



古今和歌集の恋歌は大好き。


とてもロマンチック。


せめて、夢の中で逢えたなら…


昔々の平安時代、切ない恋心を抱いていた人達に、共感してしまう。



「この時代は今と違い、身分の差があって、恋愛は自由ではなかったんだ」



ううん、先生。


今の時代だって、自由ではない恋愛はあるよ。



「想いを寄せる人に自由に逢えないこの時代の人々は、相手を想えば夢で逢えるのだと信じていたそうだ」



先生の口から、ロマンチックな言葉が溢れ出している。


心がキュンと、しめつけられる。




木枯らしの吹きすさぶ窓の外を、先生はじっと見つめていた。


雪化粧をした木々達が揺れている。


先生は何を思いふけっているの?



想いを寄せる人が夢に現れるのは、相手が強く私を想っていてくれるから…


私もそう信じたい。


ねぇ、先生。


私達は、夢の中で逢っているんだよ。




木枯らしを見つめていた先生が、不意に顔を教室に戻した。



―パチン!―


私と先生の視線がぶつかり、背中に電撃が走った。


先生は、驚いて目を丸くした様に見えた。


おもむろに椅子から立ち上がり、ふいと背を見せた。


私も思わず、教科書に目を落とした。



「くだらないな!」


―えっ!?―


先生の強い口調に驚いた。


「夢に出てくる人が、自分を好きだなんて、都合のいい話だ」


今までの全てを、先生は打ち消してしまった。



同時に、私の想いが突き放された様だった。



先生は、夢から覚めた様な顔をしている。




『くだらない』だなんて…


誰に言われてもいい。


先生にだけは、否定されたくなかった…

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