第14話 諦められない想い
「亜澄ちゃ〜ん!古今和歌集の訳、やってきた?」
終業のチャイムが鳴り終わったと同時に、真由美が絡み付いてきた。
「もう!また?」
「次の授業でかかりそうなの。お願い、ノート見せてぇ」
こんな時ばっかり、猫撫で声の真由美。
「たまには自分でやって来なよ!」
「分かってるんだけど…亜澄の訳、完璧なんだもん。頼りにしてるのよぉ」
「しょうがないなぁ…」
カバンからノートを取り出し、真由美に渡した。
「ありがとーございますぅ!」
大袈裟にノートを頭の上に掲げて、真由美は席に戻って行った。
「亜澄ちゃん、またノート貸したの?」
沙也ちゃんが、私の前の席に腰掛けた。
「いいの、いいの。予習してきたついでだし」
真由美を見ると、机にかじりついて一生懸命ノートを写している。
「先輩と“放課後デート”で忙しいみたいだし、家で勉強する暇もないんでしょ?」
「“放課後デート”かぁ…いいなぁ、真由美ちゃん。私も彼氏欲し〜いっ!」
沙也ちゃんは、大きく伸びをして続けた。
「先生と生徒の恋は、実らないのかなぁ…」
沙也ちゃんはため息をついた。
「それって禁断の愛、ってやつでしょ?」
そう、禁断の愛。
先生と生徒の間柄であっては、きっと…叶わない恋。
年の差ではない。
その間柄を、断ち切ってしまえば…
私だって卒業すれば、きっと野崎先生に見合うはず。
先生と生徒。
今の私達は、これ以上は近付けない。
「野崎先生ったら、まるっきり相手にしてくれないんだもん。誕生日だって何だって、全然教えてくれないし」
「でも、何でもペラペラ教えちゃう野崎先生、らしくないしね。生徒に媚びないところが魅力じゃない?」
「そう、だよねっ!亜澄ちゃん。先生の事、良く分かってるぅ!」
沙也ちゃんは、嬉しそうに私の手を握ってきた。
ちょっと困惑。
私だって、そんな野崎先生の事が大好きなの。
口にしたら、もっと気持ちが楽になるの?
「でもねぇ…こんなに大好きなのに、全然脈なしでしょ?めげちゃうよね。先生は諦めて、他に彼氏探しちゃおうかなぁ」
「えっ?」
「夢見てるだけじゃ、切ないよぉ」
私は…
私はどうなんだろう。
野崎先生を諦めて、他の男の子を好きになれる?
“好き”って気持ちは、そんなに簡単に切り替えられるの?
きっと、私には無理。
野崎先生の姿を見付ければ、その想いは溢れるばかり。
でも…
一方通行な想いで、満足してるの?
やっぱり…
“好き”という気持ちに偽りはない。
それは、私が一番良く知っている。
「どしたの?亜澄ちゃん」
沙也ちゃんが首を傾げている。
「あ…うん、ちょっと考え事…ごめん」
「亜澄っ!ノート、さんきゅう!間に合ったぁ」
真由美がノートを返してきたと同時に、チャイムが鳴った。
「うん、良かったね」
何だか、真由美の笑顔が輝いて見える。
最近、キレイになった気がする。
胸元のロケットに手を当てた。
ねぇ、先生…
恋心を内に秘めている私は、どんな顔をしているの?
先生の瞳に、私はどの様に映って見えるの?




