第13話 ロケットペンダント
窓越しに、ほんのりと温かな日差しが差し込んでくる。
厚い雪雲を北風が払いのけて、真っ青な空が広がっていた。
雪の白さと空の青さのコントラストが眩しい。
私は目を細めた。
まどろみの午後の教室。
黒板を叩くチョークの軽やかな音だけが、心地良く響いていた。
決してきれいとは言えない、野崎先生の粗っぽい黒板の字。
結構好き。
一通り書き終わると、黒板全体をさっと見てから、小さくうなずく。
そんな仕草も好き。
教科書を片手に、ゆっくりとした歩調で、静まり返った教室を歩き始めた。
ゆっくり、ゆっくり、机の合間を歩く。
私は教科書に目をやりつつ、先生の足音と声を耳で追った。
その足音が、教室の一番後ろで止まった。
先生は時々、教室の後ろから全体を見渡しながら、授業を進める事がある。
背中に感じる野崎先生の視線。
私を見ている訳ではないけれど、心に緊張感が走る。
コツコツと、再び足音が動き出した。
先生の声が、私の座っている列の後ろから近付いてくる。
私は、キュッとうつむいた。
「西坂、アクセサリーは禁止だぞ」
ぶっきらぼうな声に、私の肩が跳ね上がった。
傍らを見上げると、後ろから先生が私を見下ろしていた。
口調とは違った、柔らかい目元。
私はホッとした。
―アクセサリー?―
先生は、着ている黒いジャージの襟元を、ヒラヒラとつまんで私に見せた。
―ロケットペンダント!!―
制服のブラウスの上から、慌ててロケットを手で押さえた。
うつむいた私の首元の、後ろ髪の隙間からチェーンが見えたらしい。
このロケットの中には、野崎先生と私が入っている。
春の校外学習で撮ったクラス写真。
そのスナップ写真の、野崎先生と私の二人を切り抜いて閉じている。
「誰かからのプレゼントか?」
小声で話す先生は、笑っている様に見えた。
「あ…、いいえ…」
そう答えるだけで、精一杯だった。
私の部屋の写真立てに、飾っていたクラス写真。
本当に小さくしか写っていない野崎先生の姿。
先生の写真は、これ一枚しか持っていなかったので、ハサミを入れるのにはためらいがあった。
元は、ただのスナップ写真。
ロケットに入る位の大きさに切ったら、先生の顔がぼやけてしまったみたいだった。
ちょっぴり後悔。
ロケットを首にかけたら、小さく胸が鳴った。
先生と私は、いつも一緒。
クロスの模様が入った、ブック型のロケットペンダント。
左側には野崎先生。
右側には私。
ロケットの中で、私達はキスをしている。




