fin.
あなたがこの手紙を見ているのなら、きっと私はもう生きていないのだと思います。
これは、最後の手紙として、そして私の遺書として、残して置きたいと思う。
まず、ごめんなさい。あなたは何も悪くないの。悪いのは、私。
お父さんにも、あなたにも、悪いことをしました。あなたはそんなことないって言いそうだね。いつもみたいに、けろっとしながら。
でもね、違うの。私の所為なの。私が弱かったから、こうなってしまった。
羨ましかったの。君のことが。弟が羨ましい、なんてちょっと変だけど。でもね、憧れてたんだよ。君の強かな部分とか、しなやかさとかに。本当だよ?
お父さんの規則をきちんと守っているのに、縛られてるって感じはなかった。それが、とてもとても羨ましかったの。私はどうしても、窮屈に感じられていたから。なのに我慢していて、頑張って、努力して。生きるのが苦痛でしょうがなかった。
君もそうだったかな? 今考えてみると、私、本当に自分のことばかりで、あなたを気遣う余裕がなかったように思うの。ごめんなさい。
だから突然に見えたのかな。私にとっては急な話だったのだけど、君はぱたりと規則をやぶり始めた。そうして、父を諦めさせて。
あなたが離脱したせいで、父の期待を一身に背負うことになってしまった私に、君は最後まで悪いと思ってたよね。
そんな弟の姿を見て、私は、馬鹿だなぁって思ってた。ごめんね? でもね、君が悪いことなんて何一つなかったんだよ。ただ負担が増えて苦しいだけなら、私も、君と同じようにすればよかったんだから。
だから、私が苦しんでたのは、私の所為。怖かったの。お父さんに見放されることが。今まで信じてきたものを、否定するのが。
ね、馬鹿でしょう?
だから、こんな馬鹿な女に負い目を感じるのなんて、止めなさい。
君は何も、悪くないんだから。
それから、もう一つ、心配なことがあるの。
あのね、早々に離脱して、自由になって好き勝手してたくせに、友達が少ないってどういうこと?
いや、百歩譲って、少ないのは良いとする。でも、一人も親しい人がいないってどういうこと。
許されないよ。友達くらい、ちゃんと作りなさい!
いい?
高校に入ったら、普通に、ちゃんと、友達を好きになること!
それから、一番の友達を作りなさい。約束ね。
真面目に学校に行って、友達作って、それなりに恋して。あなたがそうしてくれれば、あとはもう心配なことはないかな。
なんだか私は、君のことを心配してばかりだね。だって、あなたがそんな変わり者になってしまったことの責任の一端は、私にもあるような気がして。
でもね、君のそんな部分に、救われてたところもあったんだ。
あなたと初めて関係を持った夜。私は怯えてた。幸せだったけれど、不安で不安で、つぶれてしまいそうだった。そんな感情をいろいろ込めて、私は、赤ちゃんができたらどうしようって呟いたの。そしたら、当たり前な顔して言うものだから。
「だったら、名前考えなくちゃね。どうする?」
予想もしてない答えで、体中に巣食っていた暗い感情が、すべて飛んで行ったの。
つい笑ってしまって、ねえ、私はその時、心から幸福だと思ったのよ。
――――――――
こんなことを言ったら怒るかな。
私は今でも、君への感情が恋愛だったのか、どうなのか、分からない。ただの同情だったのかもしれないし、仲間意識だったかもしれない。それを愛と呼ばないのは知っているけれど、恋だとも思わない。
あなたも、そうじゃない? 愛していたかと聞かれたら頷いただろうけど、自分から言うことはなかったでしょう。私も、同じ。
でもね、そんなのはどうでも良いと思った。私はいつでも君を慈しんでいられたし、君からも同じだけのものをもらっていた。幸せで幸せで、毎日が楽しくて仕方なかった。
君と一緒に居た時間は、確かに、幸せに輝いていた。
そうだ。あの時答えられなかった問いの答え、今用意しても良いかな。
私たちの、子供の名前。あの時は、そんなこと想像も出来なくて、ただ泣くほど笑っただけだったけれど。
幸輝が良い。私たちの子供の名前は、幸輝にしたい。
――――――――
そろそろ書くこともお終いです。ここまで読んでくれて、ありがとう。
それから、ごめんなさい。こうなってしまった以上、やっぱり、君の言うように簡単にはいかないと思う。
私は、君の未来を壊してしまった。
そう思うと、もう、苦しくて苦しくて、死にたくなるの。これを書いている途中でも、何度も何度も書き直した。もう、私はダメみたい。頭が可笑しくなってるのがね、自分でも分かるの。
このままだったら、私はいずれ、狂ってしまう。
だから死にます。ごめんなさい。
読み直すことはできそうにないから、変なこと書いてたらごめんなさい。
今までありがとう。私は、幸せでした。
我が愛する弟へ。
翠尾 志麻より




