深夜徘徊
ブルーライトの光はしょっちゅう浴びているが、日光は中々浴びる機会がない。
特に小説家なんて、不摂生極まりない職業だ。
登場人物たちの声が聞こえなくなった所で、集中力が切れたことに気がついた。
背筋を伸ばすと、ポキポキとキレの良い関節の音がする。
珈琲を飲もうとしたら、もうコップには何も残ってなかった。
足先が冷え切っていることに気づいて窓を見たら、とっくに夜だった。
時計を見る。
深夜の一時。
深くため息を吐いて、目頭を揉み込んだ。
この話は、明日の昼までに担当に送らないといけない。今回の担当は締切に大変厳しい。いや、締切は守らなくちゃいけないものだけど。
今日も催促のメールが何通か来て、私をうんざりさせた。
書かなくちゃいけない。
でも疲れた。
お腹も空いている。
「はぁ…」
またため息を吐いて、ダウンジャケットを羽織る。スマホと財布を乱暴に掴んだ。
自炊なんてほとんどしない。冷蔵庫は空っぽだから、少し遠くのコンビニに行こう。
暖かいものでも食べれば、元気も出るだろう。ついでに珈琲も買おう。
外に出る。
冷風が身体に当たって、ただでさえ寒い身体がさらに寒くなった気がした。
息が白く、空気中に霧散する。
ポケットに手を突っ込んで歩く。
夜の道は、昼間とは違って、シンと静かだ。
ここが繁華街ではなく、閑静な住宅街であることも関係しているのだろう。
この時間になると、家々の明かりはほとんど無く、街灯の灯りがポツポツあるだけだ。
それが異物のように感じて、でも吸い寄せられるようにも感じる。
少し、寄り道してみようか。
ふと、そう思った。
コンビニ行く方向から、川辺の方向に足を向けた。
川の方には街灯が少ししかないので、月明かりが頼りだ。
満月より少し欠けた月が、冬の夜空にぽっかり浮かんでいる。
川のせせらぎが聞こえる。夏にはあんなに生い茂っていた草も、今は枯れている。
川の水面に写る月を見て、手が届きそうで、手を伸ばした。残念ながら、歩道からはそれすら遠かった。
川辺に無造作に置かれている枯れた草の塊は、ぼんやりと霞がかって見える。
倒されたススキを踏みつけて、そのカサついた音に耳奥がざわついた。
意味もない生は、じっと風化されるのを待つ山に似ている。
ヒューと、風が吹いて、髪を靡かせた。
ブルーライトで疲れた頭が、ほぐされていくようだ。
ほんの少しの寄り道だから、もうコンビニに着いた。
おでんと、あたたかい珈琲を買う。
店員の気の抜けた声と共にまた冷風の中を行く。
昼間とは違って、少し遠慮がちな車の音が響く。
月がまだちゃんとそこにあることに少し安堵する。
凍てつく夜、水面に浮かぶ月が誘うように揺れた。




