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短編

深夜徘徊

作者: 月蜜慈雨
掲載日:2026/02/27





 ブルーライトの光はしょっちゅう浴びているが、日光は中々浴びる機会がない。

 特に小説家なんて、不摂生極まりない職業だ。

 登場人物たちの声が聞こえなくなった所で、集中力が切れたことに気がついた。

 背筋を伸ばすと、ポキポキとキレの良い関節の音がする。

 珈琲を飲もうとしたら、もうコップには何も残ってなかった。

 足先が冷え切っていることに気づいて窓を見たら、とっくに夜だった。

 時計を見る。

 深夜の一時。

 深くため息を吐いて、目頭を揉み込んだ。

 この話は、明日の昼までに担当に送らないといけない。今回の担当は締切に大変厳しい。いや、締切は守らなくちゃいけないものだけど。

 今日も催促のメールが何通か来て、私をうんざりさせた。

 書かなくちゃいけない。

 でも疲れた。

 お腹も空いている。



「はぁ…」



 またため息を吐いて、ダウンジャケットを羽織る。スマホと財布を乱暴に掴んだ。

 自炊なんてほとんどしない。冷蔵庫は空っぽだから、少し遠くのコンビニに行こう。

 暖かいものでも食べれば、元気も出るだろう。ついでに珈琲も買おう。



 外に出る。

 冷風が身体に当たって、ただでさえ寒い身体がさらに寒くなった気がした。

 息が白く、空気中に霧散する。

 ポケットに手を突っ込んで歩く。

 夜の道は、昼間とは違って、シンと静かだ。

 ここが繁華街ではなく、閑静な住宅街であることも関係しているのだろう。

 この時間になると、家々の明かりはほとんど無く、街灯の灯りがポツポツあるだけだ。

 それが異物のように感じて、でも吸い寄せられるようにも感じる。



 少し、寄り道してみようか。

 ふと、そう思った。

 コンビニ行く方向から、川辺の方向に足を向けた。

 川の方には街灯が少ししかないので、月明かりが頼りだ。

 満月より少し欠けた月が、冬の夜空にぽっかり浮かんでいる。

 川のせせらぎが聞こえる。夏にはあんなに生い茂っていた草も、今は枯れている。

 川の水面に写る月を見て、手が届きそうで、手を伸ばした。残念ながら、歩道からはそれすら遠かった。 

 川辺に無造作に置かれている枯れた草の塊は、ぼんやりと霞がかって見える。

 倒されたススキを踏みつけて、そのカサついた音に耳奥がざわついた。

 意味もない生は、じっと風化されるのを待つ山に似ている。

 ヒューと、風が吹いて、髪を靡かせた。

 ブルーライトで疲れた頭が、ほぐされていくようだ。



 ほんの少しの寄り道だから、もうコンビニに着いた。

 おでんと、あたたかい珈琲を買う。

 店員の気の抜けた声と共にまた冷風の中を行く。

 昼間とは違って、少し遠慮がちな車の音が響く。

 月がまだちゃんとそこにあることに少し安堵する。

 凍てつく夜、水面に浮かぶ月が誘うように揺れた。







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