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第一話

 数年の月日が流れ、俺はこの世界で三歳になっていた。


 今日は、村の神殿へ行く日だ。

 三歳の子供たちを集め、魔力の有無と将来の魔力量を測定する儀式が行われる。


 魔力――つまり、魔法を使うためのエネルギー。


 そう。

 俺は、剣と魔法が存在する世界に転生していた。


(勝ったな……)


 心の中でガッツポーズを決める。

 ここから始まるのは、努力が報われる異世界人生。

 魔法を覚え、才能を発揮し、成り上がる――そんな未来が目に浮かんでいた。


 しかし。


「……残念ながら、この子には魔力がありません」


 神官の言葉は、やけにあっさりしていた。


「魔力の“器”は大きいのですが、中身が空です。これでは……どうしようもありません」


 まるで壊れた道具を見るような、哀れむ視線。


(……は?)


 一瞬、意味が理解できなかった。


 この世界では、ほとんどの人間が魔力を持っている。

 魔法が使えない者は、極めて少数派だ。


 つまり――

 俺は、生まれつきのハズレ。


 その日の夕食は、まるで通夜だった。


 父も母も無言。

 食器の音だけが、やけに大きく響く。


(まあ、そうなるよな)


 魔法至上主義の世界で、魔法が使えない子供。

 努力では埋められない“欠陥”。


 その夜。


 布団の中で目を閉じていると、隣の部屋から聞こえてきた。


 ――両親の、喘ぎ声。


(……ああ)


 二人目を作るつもりなのだろう。


 裕福とは言えない家計。

 つまり、俺にこれ以上金も時間もかける余裕はないということだ。


 腹立たしいが、理解はできた。


(……まあいい)


 ここで終わる俺じゃない。


 魔法が使えないなら、剣士になればいい。

 魔法なしで名を残した剣士は、確かに存在する。


(なら、目指すだけだ)


 翌日、俺は町で「優秀」と評判の剣士に弟子入りを志願した。


 ◇


 剣士養成所の入学試験は、ゴブリン討伐だった。


 ギルドで依頼を受け、パーティーを組んで挑む形式。

 魔法が使えない俺は、当然ながら敬遠される。


 結果――

 余り物同士で組まされた。


 パーティーは三人。

 俺と、幼馴染らしい男女の二人組。


 ……完全に、邪魔者だ。


 ギルドのテーブルで作戦会議をしているが、空気が痛い。


 俺が口を開こうとすると、女のほうが鋭い視線を向けてくる。


(はいはい、聞いてませんよね)


 その圧に、懐かしさすら覚えた。


(現世と一緒だな)


 男のほうは、正直イケメンだった。

 性格も良さそうで、ところどころ俺にも声をかけてくる。


(余裕あるな……)


 一方で女は最悪だ。

 “こんないい男と一緒にいる私、最高”という思考が透けて見える。


(こういう女、前世にもいたな……)


 イケメンの裏表のなさだけが、唯一の救いだった。


 気づけば作戦会議は終わり、「明日また集合」という流れになる。


 ◇


 翌日。


 集合場所に、俺は時間通りに来た。


 ……誰も、いない。


「……え?」


 しばらく待っても、誰も来ない。


(置いていかれた……?)


 胸の奥が、じわりと冷える。


 前世でも、何度も経験した感覚だ。


「……どうしよう」


 呟いても、答える声はない。


 ゴブリン討伐。

 不合格になれば、剣士への道は閉ざされる。


 だが――

 ここで帰るのは、もっと嫌だった。


 俺は、剣を握り直した。


(……一人でも、行くしかないだろ)


 そうして俺は、勘違いの始まりとなる森へ足を踏み入れた。

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