1話 雨が止んだみたいです。
雨というのは、神様が泣いているから降るのだと、どこかのファンタジーチックな小説で読んだことがある。
それが本当なら、今日の神様はずいぶん感情の起伏が激しいのだろう。
というのも、午前中は最近稀に見るほどの晴天だった。
だが今は、日が暮れ始めたばかりでうっすら明るいはずの空は暗く、大粒の雨粒を絶えず落としている。
そして、この情景に負けないくらい私の心も暗く、沈みきっていた。
会社を追い出され突如フリーになった私、何を思ったのか二泊三日の海外旅行に行くことを思いついた。
なぜなら仕事尽くしの日々を送っていたおかげでそこそこの貯金はあったからである!
この状況下で「どうにでもなれ」と現実逃避した結果が初めての海外旅行だ。
今思えば、よりによって行ったこともない外国である。
少なくとも、思い立ってすぐ行く場所ではない。
それをしていいのは、海外一人旅を何度か経験している人のみであろう。
そもそも、そんな経験のある人が無計画で海外行きの飛行機に乗り込むのか、という疑問もあるのだが……。
1、2日目までは良かった。
問題は最終日に差し掛かる夜中である。
美味しいお酒が飲みたいと、近くのバーに入り、これでもかというほど飲んだ。
この時点で、私の頭は完全にぶっ飛んでいたのだろう。
酔いが覚め、意識がはっきりしてきた頃。
私は身ぐるみ剥がされていることに気づいた。
正確に言えば――財布が、ない。
……終わった。
海外旅行では、貴重品を肌身離さず持つことが重要だと知っていた。
だから前掛けバッグに入れていたのに。
所有者である私自身が、最大の欠陥だった。
辛うじてパスポートは残っていたため、すでに予約していた飛行機には乗ることはできた。
不幸中の幸い、というやつである。
だが、私の不幸はここで終わらなかった。
⸻
日本に着き、マイホームであるボロボロのアパート……
(なぜそんなところに住んでいるかって?
住んでいるというより、ほぼ物置。
寝泊まりは大体会社だったので、家は近ければそれでよかったのだ)
――その場所は、炎と白い煙に包まれていた。
……え?
『燃えてね??』
しっかり業火に焼かれている。
こうして私は、無職、家無しになった。
どうしようもなくなった私は、一晩過ごすため、
都内の中でも比較的人通りはありつつも、静かな路地に身を潜め、雨に打たれていた。
ここはポジティブに考えて、シャワーを浴びていることにしようか。
そんなふうに思考を放棄し始めた、その時。
――あれ?
頭上の雨が、止んだ?
不思議に思って見上げると、汚れひとつない白いシャツとズボンを着こなした、二十代くらいの男性が、私に傘を差してくれていた。
「え?」
思わず声に出すと、彼は穏やかに言った。
「こんなところにいたら、風邪をひきますよ」
「……大丈夫ですか?」
優しい人。
これが、私の店長に対する第一印象である。
⸻
それから私は、彼にこれまでのことを、ぽつぽつと話した。
「なら――家の店で働いてくださりませんか?」
話し終えたあと、優しい人(仮)がそう言った。
そして私は、ノータイムで、
「はい!ぜひお願いいたします!!」
と、豪語したのである。
……私よ。
反射的に物事を決めるのは、やめたまえ。
こうして私は、この店で働くことになった。




