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Another Life to End  作者: 綾高 礼
第七章

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私の英雄(4)


 妖艶に笑って見せるのは、『大賢女』。

 またの名を『レイア・オルコット』とも呼ぶ。

 足元すれすれまで伸びる青紫色の髪。

 髪と同色のローブを羽織り、漆黒のドレスはスタイルの良さ、艶麗さを引き立てる。

 それは、俺が何よりも会いたかった者であって。


「……な、んで……なんで、師匠。今まで何処に」


 言いたいことがありすぎて上手く言い出せない。


「約束を守りに、な」


 師匠は勢いよく尻尾を投げ返す。

 十億はバランス感覚を司る部分である尻尾に有り得ない方向から力を受けた為、態勢がぐらつく。その隙に師匠は、十億に向かって右手を向けた。


「《ミラージュゲージ》!」


 師匠の手から放たれる闇のオーラは十億を包み込む。

 すると十億は突然、動かなくなった。


「……ふぅ。そこにいるんだろ‼ 出てこい、クレハ、いいや大賢者‼」


 師匠は大声で叫んだ。三百年前に存在したその名を。

 数秒間の沈黙の後、近くの丘から一人の男が白衣を揺らしながら歩いてきた。


「…………なんで、お前が」

「やぁ。随分と久しぶりだね、レイア。それに、神司君も」


 その男は最近モニターで目にした大森にそっくりというか、大森その者だった。


「え……じゃあ、クレハって、大賢者って……」

「……呉羽くれは……随分と昔の名前だよ。それよりも以外だったなぁ。まさかあのレイアと神司君が一緒にいるんだから。人生本当に何が起きるか分からないね。本当に」


 呉羽は語尾を強く強調した。

 そんな最中「あ、あんたの師匠って大賢女様の事だったの⁉」と近くまで戻って来ていたセレスティアが、俺に驚いたように尋ねる。


「あぁ、そうだけど……」

「もっと早く言いなさいよね‼ だってあのお方は……十億戦で私を救ってくれた命の恩人なのよ」

「……そう、だったな。なぁセレスティア、悪いんだけど師匠が来てくれた今のうちに負傷してる兵を街に避難してやってくれないか」

「何よ、ツヅルの癖に。確かに大賢女様は強いけど一人だけってのはあまりにも、」

「大丈夫だ。むしろ皆がいたら師匠は本気を出して戦えない」

「わ、分かったわよ。そこまで言うのなら……」


 そう言ってセレスティアは、負傷が酷い兵から誘導し始めてくれた。

 本当にこういう事を簡単に出来てしまうセレスティアは凄い。さすが何千という軍を率いるだけの力がある。


「呉羽……いいや大賢者だったお前が十億を使ってなんでこんな行為してるんだ? それも政府からの指示なのか? それとも……」

「まぁ、半分正解で半分不正解だね」

「相変わらずムカツク言い回しだな」


 はにかみを見せる呉羽。


「神司君には一度言ったと思うけど僕は一度死んでいるんだ」


 それは比喩表現なのか、それとも本当に死に戻りしたのか、正直どっちでもいい。


「いいから理由を説明しろ」

「レイア、少々長話になっても大丈夫かい?」


 呉羽が動かない十億を目線で追い、師匠はただそれにコクリと頷いた。

 今、師匠はどんな気持ちなんだろうか。

 死んでいたと思われる者が生きていて……でも師匠は気づいていたのか、三百年前、大賢者、クレハ、いや今はまだ何も分からない。


「ありがとう。あまり時間が無いから出来るだけ手短にいこうか……十七年前まで僕は研究者をやっていてね、まぁ色々あって世間に大嘘つきのレッテルを貼られ、世の悪にされた。

 そして一緒についてきてくれた仲間達も皆耐え切れずに自殺した。当然僕もこの世界で生きる価値なんてないと思い知らされたよ。

 でも絶対にニシア細胞はあったんだ。何百回と作成に成功した。ただそれだけが悔しくて、世界を恨んで、でも何も変えられない自分の無力さに絶望して、自殺を図った。なんの偶然か、起きたら僕は天国でも地獄でもなく、病室のベットの上だった。

 どうやら服毒してすぐに、政府の一人が偶然僕の家に訪ねてきていたらしい。政府は僕に、世間で無かったものにされたニシア細胞を使って秘密裏に研究を続けて欲しい、という依頼をもってきた……」


 初めて聞く事ばかりだった。それも当たり前か、俺は大森の、いや呉羽のことはゲーム開発者ってことしか知らないんだから。


「最初は驚いたよ。けど当時の僕は精神が疲弊しきっていた。だから当然その依頼はお断りした。もう研究なんて単語すら聞きたくもない。いっそ何で助けたんだって病室で暴れたよ。でもその数日後にもっと凄い事が起きた。

 僕は精神的にも不安定で、いつ自殺を図るか分からないということで隔離病棟に移された。そんな僕の前に、わざわざ総理がお忍びで現れたんだ」

「そ、総理ってあの総理大臣⁉」

「あぁ、そうだよ。一目に着かない隔離病棟が逆に好都合だったらしい。そこで持ち出されたのが『仮想世界移住計画』についてだった。当時はまだ『アテナス』や『レザスタ』などの没入型VRも存在しない『スマートフォン』が最先端デバイスだった時代。当然そんなことは不可能だと思った。

 僕が作ったニシア細胞は、眠っている神経系を刺激させ、脳の記憶や演算領域を拡張拡大させるというものであって、仮想世界に五感を飛ばせても、身体本体を完全転移させるなんて万が一出来たとしてもコストや時間、それにリスクが計り知れないと」


 もう呉羽が言っていることが本当なのかどうかも分からない。

 もしそれが真実なんだとしたら世間はそれをどう受け止めるのか。自分達に噓をつかれたと勘違いし、追い詰めた奴の真実に耳を傾けるのだろうか。

 多分答えはノーだ。

 それを分かって政府は呉羽を利用しようとしている。


「当然、その計画に協力するという事は政府の犬になるということでもあるんだけどね……更に総理は僕の研究を全面バックアップすると言ってくれた。その時言われたのが『未来はまだ君の手できっと変えられる』だったんだよ」

「あ、それって、あの時の……」

「そう。で僕は研究者にとって夢のような莫大な資金と時間を与えられた。それがアイ・ジーが生まれたきっかけだ。神司君もアイ・ジーを初めて起動させる時に飲んだだろう。小型カプセル。アイ・ジーを使うには飲んで貰う必要があるからね」


 あぁ、確かに飲んだな。早く仮想世界に行きたくてそんなの一瞬で忘れてたけど。


「それがニシア細胞の原型であり、僕が政府から頼まれて作り上げた人工知能細胞なんだ。人間の細胞を活性化させ一時的に素粒子状に変換、圧縮し、完全転移させる。

 でも政府の依頼はそこで終わらなかった。いつの間にか時代はVRやAIの時代になっていた。そこで政府は、新たな問題に追われていた」

「もしかして、それが年間自殺者大量増加事件」

「そう。それで数年先に制作予定だったアイ・ジーと連携して行ける仮想世界を急遽作らなくてはいけなくなった。それが製作途中だったALE」


 そこからは俺もだいたい知っていることだった。呉羽は大森と名を変え、ガルテシアに配属させられALEを創り上げた。


「そもそも僕はゲーム作りなんてしたことなかったから、政府の指示をそのままスタッフ達に伝えるくらいだった。

 AI達も既にALEで生活していてね、後は実際に僕が完全転移して調査する。デバック作業みたいなことしか出来なかった。でもそこで――」


 一度、口元で言いよどむ。目線の先に師匠がいる。


「私と、出会ったんだな」


 師匠は冷静にそう答えた。


「あぁ。あれは僕にとっても誤算だった。まぁそこから紆余曲折を経てアイ・ジーをAI達に渡し、必要なアイ・ジーは役所に行けば貰えるようにまでして、レイアと別れた後、仮想世界内の時間を早めた。サービス開始時からは使えない没入型時代の技術だね。けど――問題はそこじゃない」

「でも師匠は……」

「そう、レイアは死ななかった――正しくは老いなかった、身体の成長が二十代半ばで停止している」

「そんなことあり得るのか、普通」

「これは僕の勝手な予測なんだけどね。政府はまだ、僕に何か隠している……」

「? 開発ディレクターでアイ・ジー制作者の呉羽に何を隠す事があるんだ?」

「神司君、そもそもこのALEのAI達は何処かおかしいと思わなかったかい。見た目は人間と瓜二つで、感情表現も豊かすぎる。怪我をすれば血だって出るし子供だって産まれる」


 …………確かに、呉羽の言っていることは何となく感じていた。

 でも考えないようにしていた。そういうものなんだって。俺はVRゲーム経験が無いから最新技術は凄いんだって。

 でもそこで、呉羽は一番考えたくないことを口にした。


「――――何故、AI達は細胞力セルフォースが使えるんだ――――」

「え……」

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