第6話 旅立ち。
2日ほどたって、アンナの体調も大丈夫なようなので出発しようと思う。
陛下にお暇を告げて、山を下りる。
麓の別荘で、気の知れた指揮官を一名、山にあげる。
「俺はゲルダに行くことになったから。」
「え?なんかやらかしたんですか?副将軍が自ら遊牧民族の監視とかって…え?」
「なんでもねえよ。この娘を送っていくだけだ。」
アンナはおばちゃんの用意してくれた女中の服を着ているので、大騒ぎにはならなかったが…お前ら、もっと危機感を持て!山荘から知らない女を伴って降りてきたら不思議に思え!!
別荘の宿舎に置きっぱなしの軍服やら着替えをカバンに詰め込んでから、皇后に挨拶に向かう。
「あれ?ランベルト様?」
部屋の前の警備兵に驚かれるが、まあ、いい。
部屋に入ると、皇后陛下が皇帝からの手紙を読んでいるところだった。御子達は乗馬の練習に出かけているようだ。
「失礼します。ランベルトが皇后陛下にご挨拶申し上げます。」
「まあ…うふふっ、普通に話してランベルト。ずいぶん遠くに出かけるのね?」
「ええ。」
「ゆっくり休んできてちょうだい。それに、婚約おめでとう。ゲルダ国の侯爵令嬢ですって?よかったわ。あなた忙しすぎて、お嫁さんを貰う暇がなかったんでしょう?」
…陛下…うまくごまかしたな。なるほど、そう来たか。
皇后陛下は、御子を3人も産んだとは思えないほどの若々しさと、陛下に寵愛されている自信で輝いて見えた。いいことだ。
帝国が8つの周辺国を平定したとき、国々はこぞって国の姫を献上した。俺の母国、エルゼ国からは第一王女のソフィーア、この人が後宮に上がった。
まだ正妃がいなかった皇帝陛下は、ソフィーアを正妃に選んだ。
聡明で美しい、白磁のような肌、流れるような金髪が輝く、俺の幼馴染。まあ、兄上の許嫁だったんだけど。
にっこりと微笑む皇后陛下に見とれていた自分に気が付いて、ごほんっ、と咳払いをする。
「それでは、行ってまいります。陛下もお体お大事に。」
別荘を後にする前に、2階の窓を振り返って見ると、皇后陛下が手を振っているのが見えた。思わず手を振り返しそうになって…深々と一礼する。
*****
「綺麗な人だったね。あの人が皇后陛下?」
「ああ。」
皇帝陛下が馬車を用意してくれると言っていたので油断していたが…用意されていたのは荷馬車だった。荷台に袰が付いているのが不幸中の幸いか。
…荷馬車かよ…いやがらせか?
「あら、毛布も積んであるし、当面の食糧や薪まで積んであるわ!」
ジャガイモの入った箱や、小麦粉が入った袋まで。もういやがらせなのか親切なのか…あの方が楽しんでいることだけはわかる。時々…こういういたずらを仕掛けてくる。
もちろん御者もいないので、馬の手綱を俺がとることになる。
後ろの荷台で荷物を確認していたアンナが、よっこらしょ、と御者台に出てきて俺の隣に座る。
「どこかで普段着を買わなくちゃね、ランベルト。私たちの格好じゃ、荷馬車に似合わないわ」
それもそうだな。…って、呼び捨てかよ!!
次の大きな宿場町で、古着屋によって服を買う。アンナはシャツとズボンと紐靴を買った。
さっさと着替えて、着てきた女中用の服を店主と交渉して結構良い値で買い取らせていた。
バッサリと切られた銀色の髪、日に焼けた顔や腕、貧相な体つき…そこにシャツとズボンじゃ、まんま男の子だな。
生贄の乙女、って言っていたから…14.15歳くらいか?
俺も着替えたので、二人並ぶと、兄弟?おじさんと甥っ子?そんな感じかな。
手綱をつかみながら、隣に座るアンナに声をかける。
「お前、幾つなんだ?」
さっきの宿場町で買った昼飯のパンを食いながら、アンナがなんてことなく答える。
「21歳」
え?…とっちゃん坊やの女版って、なんて言うんだっけ?え?21歳?乙女なの?
「ランベルト、今、相当失礼なことを考えていただろう?」
「……」




