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第4話 皇帝。

「顔をあげろ」


陛下は白の立ち襟のシャツ。かなりラフな格好だ。まあ、この山荘では気を使わなくちゃいけない人はいないから。


女を陛下用の客室につれて行くと、意外なほどきちんと膝をついて深いお辞儀をした。顔をあげるように言われても、たいして怖気づくこともなく、すくっと立ち上がって陛下を見る。


…いやいや、慣れた人でもなかなか陛下をガン見する奴はいないけど…


「ふーん。まあ、病み上がりだ、座りなさい。」


陛下に椅子を勧められて、さっさと座る奴も初めて見た。おばちゃんに言われたからそう見えるのかもしれないが、座った姿勢も綺麗だ。


仕方なく俺はその女の後ろに立つ。念のため帯剣している。


「名はなんという」

「アイナ、と申しました。生きている頃は。」

「ほう。帝国語が上手だな。して、生贄だと?」

「はい、神様。母国はこの夏、大変な日照りになりまして、このままだと飢饉を招きかねない事態になりました。古よりの風習により、竜神様に生贄を捧げることになり、私が選ばれました。」

「…と、いうことは、お前はアルバ国の第三王女か?」

「いえ。第二王女です。」


…え?


「あそこは、何年か前に跡取りの第一王女が誘拐されたばかりだろう?」

「…まあ、神様、よくご存じで。荒くれ者の遊牧民に強奪されました。」

「ふふん。ではお前が跡を取るはずなのに、生贄とはな。確かに、王族の未婚の乙女を放り込む、という慣習だったと聞いたことがあるが…。今時、本当に信じているわけか?」

「気を付けてはいましたが、足元をすくわれましたね。あれよあれよという間に聖女と担ぎ上げられて、山奥にある竜の泉にドボン、です。」


臆することもなく、淡々と状況を説明するアイナ、と名乗った女。

陛下も面白い玩具を見ているようなお顔だ。笑みさえ浮かべている。


「それで、私のことを、神、と呼ぶのはなぜだ?」

「私は死にましたので。ここが竜の国であれば、仕えるべき王たるものを、神とお呼びしましたが?ゴットフリート皇帝陛下。」

「ふふん…お前、面白いな。」

「私本人は母国民に殺されましたのでね、面白くはありませんが。」

「竜の花嫁になりに来たんだろう?私の後宮にでも入るつもりか?」

「できれば…」


は?


「できればご遠慮したい。あなた自身も、何のメリットもない小娘を後宮に入れても面白くもなんともないでしょう?」


くくっ、と陛下が笑う。いや…怖いわ。


「じゃあ、メリットもない者を生かしておく必要もないな。」

「そうですね…あの国をやると言っても、いらないでしょう?」

「ああ。要らんな。」

「では、どうでしょう。この竜の国にも不毛の地はありますでしょう?私に2年頂ければ、人の住めるところにして差し上げます。」

「ほう…それを私に信じろと?」

「まあ、私としましては一度死にましたので、二度も無為な死に方はしたくありませんのでね。」


「あははははっ、面白い。出来なかったらもちろん死ぬことになるが、いいな。」

「はい。」


「ランベルト」


会話に半ば呆れながら聞いていたが、急に名を呼ばれたので、飛び上がるほど驚いた。

「この女のことは今日からアンナ、とでも呼べ。この国での名が無いと不便だろうからな。それと…お前に長期休暇をやろう。2年だ。この女から目を離すな。」


「…え?」


俺が皇帝陛下に仕えてから、早10年になる。今でこそこんなにのんびりと山荘に滞在したりできるようになったが、そのほとんどを戦場で過ごしたようなものだ。陛下がビアンカ山脈の南側すべてを平定し、ようやく小さな国々同士で続いていた争いが無くなったのだ。


俺は確かに休暇が欲しいとは言った。


でも…それって休みじゃなくない??仕事って言わない?


「はい。」


はい、以外に俺が何か言えなくない?










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