第13話 姉。
夕刻。そう言ってもまだ日は沈みそうにない頃に、長のいるというテントに着いた。
招き入れられる前に、テントに入る際に刃物類はおいていくように言われる。まあ、不思議ではないが、不安ではある。致し方ないので、テントの入り口に待機することになった兵士に、剣を手渡す。先方の警備の者はざっと10名ほどか。
俺とアンナと、もう一人だけ兵士を連れて行く。
商隊の代表だった者に連れられて、テントの入り口を入っていく。
カーテンの向こうに先に入っていった男の声がする。
『長、ただいま戻りました。ドラッヘン帝国の副将軍殿が護衛をしてくださいました。お連れしております。』
『ああ。大変だったな。帝国からは色良い返事をもらっている。ゆっくり休んでくれ。』
『ありがとうございます。』
ぼそぼそと俺の耳元でアンナが通訳してくれる。先に皇帝陛下から書簡を預かってきたようだな。
「それでは みなさま どうぞ」
片言の帝国公用語で、男がカーテンを開けて、案内してくれる。
テントの中はほんわりと暖かい。足元には毛皮が敷き詰められていて、民族独特の豪奢な刺しゅう入りの服を着た長、と呼ばれている男とその隣にヴェールをした女が一人座っている。
「初めまして。ドラッヘン帝国の帝国軍副将軍のランドルフと申します。ウーノ国、国王陛下にご挨拶申し上げます。」
俺が跪いて正式な礼をしている横で、同じく跪いて帽子を取って胸にあてたアンナが、民族の言葉で俺の言葉を通訳してくれている。
「ああ。よろしくお願いする。ウーノの長、レオン、だ。面を上げなさい。」
意外なほど綺麗な帝国公用語だった。イントネーションも完璧だ。遊牧民族に多い黒髪に、褐色の肌をしている。
俺は立ち上がって、軽く礼をすると…アンナが立ち上がらない。
(アンナ?どうした?)
小声で声をかけて、腕をつかんでひょいと立たせる。アンナは瞬きもしないで長を見つめている。…いや…さすがに失礼だろう?
「…レオン?」
ざわっ、と両脇に控えている遊牧民の兵士が動揺するのが伝わる。
おい。呼び捨てするな。慌ててアンナの口を片手で塞ぐ。
「レオン!」
どうするこの小娘…
「アイナ??」
驚いたことに、どっかりと毛皮が敷かれた大きな椅子に腰かけていた長が、慌てて駆け寄ってくる。
「アイナ?アイナ!」
何?何が起こってるのかな??小娘は俺の腕を振り払って駆け寄るし…長の護衛役の兵士たちも呆然としているし…挙句に…駆け寄った長がアンナを抱きかかえて離さないし…
俺…何を見ているんだろうな?
呆然としてしまった。
長の妃と思われる女もよほど慌てたのか、よろけるように駆け寄ってくる。
小さいアイナが二人に抱きしめられている。
…え?
「アイナ?生きていたのね?」
うーん…どうすればいいのかな?俺もいい加減いろいろな修羅場をくぐってきたけど…こんな事態は初めてだ。話がさっぱり分からない。
「こ…こんなに短く髪を切られて…ドラッヘン帝国に捕虜として捕らえられたの?あなたが死んだと聞いていたけど。」
「…姉上…姉上こそ、生きていらしたんですね?レオンも!」
「ああ。こんなところでアイナに会えるなんて!ドラッヘン帝国に捕らわれていたのか?」
長の目配せ一つで、俺ともう一人の新人兵は抑え込まれて喉元に剣を突き付けられる。
独特な形の大きな剣だ。俺たちは丸腰だし、逆らいようがない。投げ飛ばしてもいいけど、ますます話がややこしくなりそうだ。連れてきた兵士の顔は強張って真っ青だ。
「違うの!姉上!レオン!この人は私の婚約者よ!」
アンナ…話を…これ以上ややこしくするな…。




