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第11話 遊牧民。

その商隊の荷物を隅々まで確認する。


主に絨毯。独特の模様の入った陶磁の食器や壷などの装飾品。

銀ぎつねの毛皮。高地でとれるお茶など…。皇帝への献上品と言われれば十分豪奢なもの。

それに…書状を出した返事もあった。間違いなくゴットフリート皇帝陛下のサインと玉印が押してある。先にこちらを出してくれれば、問題なかったのに。


陛下からの書状を確認していた俺の手元を覗いていたハンネスに耳元で囁かれる。

くすぐったいだろう?!


「どうする?ランベルト?」

「書状が偽造された感じはしないな。通すしかないだろう。帝都まで護衛を付けるか?」

「そうだな…10名ほどでいいか?」

「だな。」


書状が本物なら国賓扱いになる。

ハンネスが丁寧に代表の男に詫びを入れて、通行を許可した。なにせ、今まで国交らしい国交がないところだ。慎重になるのは仕方がない。念のため帝都まで早馬を出して知らせを入れる。


夕方にはその商隊を見送る。


ひと段落して、ハンネスと続けて飲む気にもならないので家に帰ってきた。


アンナが窓際に椅子を引き寄せて、商隊の去っていった道をぼんやりと見ていた。

傾いた陽が横顔を照らしている。…西日、暑くない?


「大丈夫か?お前…」

「……」

「ディオーナって、お前の、誘拐された姉、だな。」

「……」

「生きているのがわかっただけよかったじゃないか。」

「…私は突き落とされて一思いに殺されたけど…。姉は…強奪されて…死ぬほど苦しい中で死ねもせずに…生きているんだとしたら?」

「……」

「ねえ、どうしよう?ランベルト…」

「んじゃあ…あの商隊が帝都から帰って来る時、俺が一緒に行って、挨拶してきてやるよ。な?」

「私も行きたい。」

「それは勘弁してくれ。お前のことは陛下から預かってるんだから。陛下との約束を守らなきゃ、お前も命の保証はないんだぜ?な。俺に任せろ。」

「……」

「俺こう見えても結構強いんだぜ?」

「…農作業では悲鳴を上げてたくせに。」

「使う筋肉が違うんだ!それにもう、慣れたしな。まあ、俺のことは心配するな。ただ、じゃあすぐお前の姉を取り戻せるかって言ったら、少し難しい。下手すりゃ帝国が宣戦布告したみたいになっちゃうからな?」


「…うん。」



ぽんぽんとアンナの頭をなでてやると、アンナがぎゅっとしがみついてきた。泣きたいんだろうけど…泣きはしなかった。いつまでもいつまでもしがみついていた。



*****


何も変わらない毎日のように畑仕事を続けて、一月ほどたった頃、帝都から伝令が来た。秋風が吹くころになっていた。もうすぐあの商隊が帰って来るらしい。問題ないのでそのまま通すように、という内容の書状だった。


もう一枚…俺宛の走り書きみたいな手紙が同封されていて、お前が先方に挨拶に行ってこい、と書かれていた。…まあ、行く気だったけど。読み進めていくと、アンナも同伴しろと…?

まあ…陛下がそう言うなら、しますけどね。俺としては…嫌だけど。あの人のことだから、何か思惑があるんだろうけどね…。


つれて行くことになったアンナの服装を考える…ドレス?いやいや、長という奴の側室にさせに行くわけじゃないし。また女中の服でも着せるか?いや、こんな荒野に行くのに女中を伴っていくのも変だよな?普段着?汚い野良着だしなあ…。


いろいろ考えて、ハンネスのところから、一番小さな軍服を借りてくる。靴も。

当日は馬も借りることになる。


「二人きりはさすがに危険だろう?護衛を出すか?」

「…そうだな…あまり多いと疑われるかもしれないから、腕利きを5人、ってとこかな?」

「わかった。気を付けて行けよ。お前は…いつも皇帝陛下に振り回されて死にそうになってるんだからな?」

「お…おう。」

「南部の最後の前線で…陛下の真ん前で串刺しになっていたお前を見た時は…泣いたよ。」

「今か?ハンネス!縁起の悪いこと言うな!!」



南部の前線か…随分昔のことのように思えるけど、ほんの4年前。最後の戦いだったなあ…陛下の御前に近づいてきた男の軍服にエルゼ国の白の紋章が見えたから、油断した。ほんのその一瞬、剣を抜く間もなかったので、陛下の前に飛び出た。ずぶりっ、と自分の横腹にそいつの剣が刺さる。…痛いというより、なんでエルゼの者が?という驚きが大きかったな。その男のことはもちろん、腹に剣が刺さったままでも、ちゃんと成敗したけど。後で聞いたら、制服を奪って潜り込んだ南部の人間だったらしい。



皇帝あんたが死んだら…ソフィーアが泣くもんな。



薄れていく意識の中で、泣いているソフィーアが見えた気がした。泣き顔は似合わないよな。

誰の隣にいてもいい、笑っていてほしいんだ。



目が覚めたら野戦病院の簡易ベッドの上だった。


やっとのことで回復して職場復帰したら、帝国軍の副将軍職に任ぜられた。


素直に喜んでいたら…なんてことはない皇帝陛下の雑用係だった。


「私が死んだらソフィーアが泣くぞ?ということは、お前は全力で私を守り抜く、ってことだろう?くくっ」


意地悪そうな微笑みを浮かべて、皇帝陛下が俺に副将軍の勲章を下さった。


…まあ、いいか。



しまってあった軍服をハンガーにかけて、しわを伸ばす。

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