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第10話 一年。

冬は暇かと思ったら、アンナに狩りに誘われた。


何やら工作をしているなとは思ったが、雪の上を歩けるように長めの板に反りまでつけて…

「そう、ここに靴をおけ。」


冬の間は、というか雪が降りだすと、戦は続けられない。春まで両陣営とも撤収してしまうので、昔の俺なら降り出した雪を見てほっとしていたが…ここではまだ働かされるのか?

「狩りが、得意なのか?」

「ディオーナ…姉が得意だった。いろいろなものを狩りに行っていたな。いつぞやは狩りに出かけて、国境沿いで子供を拾ってきたことがあった。ふふっ。姉のお気に入りで、小姓にしていつも一緒にいたっけ。」


ぎゅうぎゅうと俺の編み上げ靴を板に括りつけながら、アンナが思い出し笑いをしている。まあ…つらい過去、だな。


冬の間は、近くもない森に出かけて狩りをした。

春になって入れ替わった新人兵士をこき使って、アンナが畑を拡大。

初夏、アンナの干ばつ用の麦が実った。これはすべて種籾になる。

この辺も雨の少ないところだが、通常の麦も何とか実る。

夏にカボチャやジャガイモを収穫して、耕して、違う場所にまた植える。

……俺もアンナも日に焼けて真っ黒だ。


たくさん実ったカボチャをハンネスに賄い用に買い取ってもらって、久しぶりに奴とワインを買ってきて飲む。まだ昼過ぎだが、たまにはいい。


「お前らさ…どうなの?」

「どうって?」


田舎のワインなんて…と思っていたが、結構いけるな。


「いや、その、ほら…忘れそうになるけど、あの子、女の子なんだろう?」

「ん?ああ。」

「うちの新人たちの間ではファンクラブができる勢いなんだぜ?一つ屋根の下で一年も暮らせばさ、そういう、色気のある雰囲気になったりして?」

「…どうもこうも、なにもねえよ。」


何言ってんだハンネス。監視役みたいなもんだぞ。色気もくそもあるか。


チーズとかも買ってくればよかったな。


しかし…ファンクラブねえ…


あいつは…風呂上りにはいつも寝間着姿でうろうろしているし、料理は下手だし、繕い物もできない。本当に王女様なのかな、と思ったりする。俺だってお坊ちゃまだけど…必要に迫られて、料理も裁縫も洗濯、掃除もできるぞ?軍に入ってから覚えたんだけどな。

それに、口は悪いし、人使いは荒いし…まあ、最近は見慣れてきたからかわいいけど。


ハンネスと飲んでいると、ドアをノックして伝令兵が入ってきた。

「失礼します。司令官、国境で開門するよう言ってきた商団なのですが…」

「どうした?」

「どう見ても遊牧民族の商隊なんですが、通行証がアルバ国の王室発行の物なんですが…言葉が通じなくて…」

「は?」

「俺が行く。ちょっと待たせておけ。」

「ランベルト?」


急いで表に出ると、ちょうどその辺の畑で麦わら帽子をかぶってノートを取っているアンナがいた。急いでいたので、腕をつかんで連れてくる。


「なんだよ?お父ちゃん。」

「お前、遊牧民族の言葉は話せるか?」

「ん。なんとか。」

「今来た商隊が、アルバ国の通行証を使っている。アルバ国がうちに入るなら、ベンノ国を経由するだろう?こんなところに商隊はおかしいよな。」

「…そうだな。」


一緒に行くというハンネスを押しとどめる。罠かもしれないから。司令塔は大事だ。残りはみんな新人なんだし。


10人ほど兵を連れて、アンナを背中に隠し気味にして、商隊の代表者と会う。


「お前の出した通行証はアルバ国のものだな?どういういきさつだ?」


後ろからアンナが片言の遊牧民の言葉で繰り返すと、言葉が通じたことにほっとしたのか、緊張していた男の顔がすこし緩む。


『ドラッヘン帝国の皇帝陛下には華国経由で書状を出してある。国交をするための貢物を運んでいる。ここを通る時にアルバ国の通行証で通れ、と。長がそう言った。』

『長、というのはお前たちの首長か?』

『そうだ。』

『そいつがどうして、アルバ国の王室発行の通行証を持っている?』


『長の妃が、アルバ国の王女だからだ。』


商隊の男の言ったことを通訳しながら…アンナの顔から血の気が引いて行った。

そっと、背中に手を回す。相変わらず小さい。


『その方の…お名前は?』


『ディオーナ様だ。』












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