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覚悟②【如月聖真】


 三十人殺したら、自由になれる――十六の夏、そんな内容の契約をして、俺たちは殺し屋になった。


 その日、学校から帰ると、父親が首を吊って死んでいた。すると柄の悪い男たちが入ってきて、死体を見て怒り始めた。俺達が知らないうちに父親は借金を抱えていて、返さずに自殺したらしい。奴らは俺の隣にいる聖華を見て、こいつを売ろうとか言いだし、聖華をさらおうとした。パニックに陥った聖華は、とっさにはさみで男の首筋を刺した。男達が怒鳴り散らして逆上してきたから、俺は灰皿を男の頭に投げつける。そんな格闘のあげく、二人で全員殺してしまった。


 すると、寝室からゆらりとリリアが現れて「殺し屋をやりませんか」と言った。リリアの組織は殺人や拷問を請け負っていて、借金取りの会社と繋がりがあり、親父の取り立てに同行させられていたらしい。しかし、俺達の衝動的な殺人を見て、自分の組織で使いたいと思ったとか。リリアは若くて体力があって身寄りのない、便利な労働者を探していたと言う。


 断ったら、借金取りの会社の奴らが地の果てまで追いかけてくる。捕まったら、俺も聖華もどうなるかわからない――そんな状況だった。だったら人を殺してでも自由になってやろうと、俺達は契約を締結した。リリアはもし途中で任務を放棄したらすぐに借金取りに引き渡すと言う。

 その時殺した男達の死体は、リリアが処理してくれた。


 それから過酷な修行も、罪悪感で気がおかしくなりそうな任務も、機械のように耐えてきた。精神崩壊しないために、精神科にも通うようになった。そしてようやく二十七人殺し終えて、解放が近づいてきた。そんなとき、最後のターゲットに至貴が選ばれるなんて――。


「聖真、大丈夫?」

 ソファで呆然としていると聖華が肩に触れてきた。

「どうしよう」

「そうね、至貴を殺すなんて」

「この依頼、どうにか変えてもらえないのかな」

「契約では無理ね」

「至貴を殺すくらいなら、俺、死んだ方がマシだよ」

「聖真が死んでも、至貴を殺そうと依頼した奴は生きてるよ? 私達がやらなかったとしたら、そいつは他の殺し屋に依頼すると思うけど」

「確かにそうだな。あぁもう、マジでなんなんだよ。誰なんだよ、そいつ」

 すると聖華がうっすら口元を緩めた。


「ねぇ、逃げ道一つだけ思い浮かぶんだけど」

「なに」

「覚えてる? 依頼人が依頼を取り消した場合、その任務は無効となるって、話」

「そう言えば」

「うん、だからさ」


 聖華が細い腕を俺の頭に回し、蚊にも聞こえないような声で囁く。


「依頼人、探そうよ。それで、拷問でもして、依頼取り消させよう。二十七人殺した私達ならもう、できるでしょ」


 自分と同じ、青く澄んだ瞳をじっと見据える。深く暗い落とし穴のなかで、一本の糸が垂らされた気がした。


「良いのか? 至貴は俺にとっては幼馴染で親友だけど、聖華は俺ほど仲良くないだろ。予定通り殺していれば、借金からも組織からも解放されるのに」

「なに言ってるの、大事な幼馴染だよ。この間も三人で映画行ったじゃない」

「聖華が良いなら、俺はそうしたいけど――まず、至貴を殺そうと考えている奴がいること自体、考えられないし」

「そしたら、表面はリリアに従うフリをして、この二週間で全力で依頼人を探そう。私達でどうにか至貴を守ろう」


 その言葉に涙がじわりと湧いてきた。


 子供の頃から一緒だった聖華。優しくて純粋な、愛しい妹。

 父親に殴られ、蹴られ、焼かれ、辱められ続けている時も、聖華がいるから耐えられた。こんな状況においても、俺は一人じゃないのだと実感した。


「ありがとう」


 聖華をぎゅっと抱き締める。聖華の手が俺の背中に優しく触れる。妹も親友も、俺が絶対守り抜こう。

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