ジェイン・オーレリー・ターラント 7
「間違いは正さねば……あの魔力無しに序列を理解するようにしつけなくては……」ジェインはそう思いつつも、アメリアに近寄れないでいた。
夜会や茶会の度にアメリアに話しかけようとするのだが、侍女や護衛たちに上手く交わされてしまうのだ。
おまけに彼女の夫となったダグラス・ダヴァナーまでもが、ジェインを見かけるとスルスルと遠くに逃げていく。
なんと、あの子に近寄ることも出来ないでいるうちに四年近く経ってしまった。
その間に、もう一人の娘のシーラが近衛騎士として王族に侍ったり、見初められたのか第二王子妃からの縁談があったりと、ジェインも誇りに思うようなことがあった。
シーラは淑女教育もまともに勉強しない、不真面目な子であるのだが、夫の親族よりの色味を受け継いでなかなかの器量よしに育ったので、そのおかげかも知れない。
第二王子妃は親戚筋のダウニング侯爵の娘だからか、それもあっての引き合いだろう、とジェインは密かにほくそ笑んだ。
ほら、第二王子妃でも私の血筋を無視できないんだから、あの魔力無しもそれを見習うべきでしょう?私がしっかりとしつけてやるんだから、一刻も早く声をかけないと。
序列としてなんの間違いか、あの子が準王族となっている為に、ジェインも親戚であるエアルドレッド侯爵やダウニング侯爵に向かう時ほど、傍若無人には出られなかった。
ジェインは前王弟殿下の孫、れっきとした王家の血を引く身分なのだ。なのに、私が産んだあの娘に声をかけることも出来ないとは!
そんな事があって良いはずはない。この私、ジェイン・オーレリー・ターラントは子爵夫人にして、尊い王家の血を引く立派な貴族女性なのだから。
とある社交パーティーの場で、ジェインはようやくアメリアに近寄ることが出来た。
「あらまあ、これはこれは今代のマイラ様ではなくて?」
私は、魔力無しに話しかけました。見た目だけならエアルドレッド侯爵にそっくりなこの魔力無しに、周囲は騙されているのです。
「どなたかしら?」なんと言うことでしょうか。年長者に向かって座ったまま話しかけるなんて!
「なんとも親族の年長者に向かって、礼儀正しいことで」扇を口にしつつ、私は娘に向かって婉曲に不愉快だと伝えます。
「そうね、序列を言うならわたくしはこの場にいる誰が相手でも座ったままで許される立場ですわ。まして会ったこともない知らない方に親族扱いされるとは思いもしませんでしたわ」
「……このわたくしに、なんと生意気な」
こちらが婉曲に伝えたにも関わらず、なんと直接的は侮辱でしょうか。思わず私は手にしていた扇を、この小娘に向かって振り下ろそうとしておりました。
私の手にした扇を、魔力無しの夫が右手で受けてかばいますが、何としたことでしょうか。私の教育的な叱咤を避けるだなんて!!!
「イケませんね。マイラ様と分かっていてこのようなことをなさるとは」とダヴァナー伯爵はそう言って、ターラント子爵夫人である私を拘束したのでした。
「ご酒を過ごされたようだから、控室にお連れするように」
☆
気がつくと簡易な牢の中におりました。
「あなた、わたくしをここから出して、黙って見ているだなんて、一体何をしているの?」私は檻の前にいた夫のエドワードに言いましたが、彼は何か言おうとして結局なにも言わずに口を閉じました。
なんて頼りにならない夫でしょう。
「わたくしを誰だと思っているの?早くここから出しなさい。早くっ」私が声を荒げても、牢の前の兵士は反応しないのです。
エドワードは、兵士に何があったのかを聞いています。
大したことはしていないんだから、早く出しなさいと言っているでしょう。
檻を揺らしても誰も私を出そうとしません。ダウニング侯爵もやって来たものの、エドワードと話すばかりで私の方をチラとも見ないので、更に大きく檻を揺らしたのだけど……
それからはあまり覚えてはいない。
誰かが出す大声に気分が悪くなったり、気がつくと体中が痛かったりと、付添のメイドには「ジェイン様が暴れて危ないので、拘束しました」とか言われた。
実際に両腕に縄が掛かっていたけれど、この淑女たる私がそんな事をするわけがないので、このメイドは嘘つきだと思う。
「気分が落ち着くお茶ですよ」と言って度々出されるハーブティーがあるのだが、それを飲むと眠ってしまう。
なにか恐ろしいことがあったような気がするのだけど……
☆
「エド、エド さっきまでお腹にいた子がいないのよ……わたくしの赤ちゃんが…… エドを呼んで!!!」そう言って泣きわめくターラント夫人をなんとか押さえつけて、看護人は鎮静剤を投与した。
この人はずっと記憶が混乱していて、意識がはっきりしていることもあるが、そういう時は常に尊大で違う意味で意思疎通が出来ない。
そうでなく混乱している今のような時のほうが、小さい女の子の人形を渡してやると静かになる分だけ、会話が出来る。
気の毒に、亡くしたお子さんの事をずっと探しているようなのだ。




