ジェイン・オーレリー・ターラント 6
エドワードはひとまず、泣き叫ぶジェインを宥めて眠らせた。産まれたばかりの子を乳母に預けて、今後のことを考えた。
あの子には魔力がない……
あれは、結婚前に友人から聞いた……あの子はマイラだ。
魔力がないと聞いて、ジェインはなぜあれほど取り乱したんだ……?彼女の立場なら、義父上からなにか聞いていても良いはずなのに?
もしかして話が通っていない?
「エドワード様、奥様が目を覚されました」侍従が彼に知らせてきたので、エドワードは急いでジェインの枕元にやって来た。
「ジェイン?落ち着いたかい?」
「エド?どうしたの?何があったのかしら?」
「いや、出産後すぐだったのでちょっと記憶が混乱したんだろう」
「あら、嫌だわ。エドったら、私が出産だなんて……まだ早いわよ」ジェインはにこやかにそう言った。
「どうしたんだ?ジェイン、ほらさっき産まれた私たちの子を連れてきてもらおうよ」
「何を言ってるの?私たちの子だなんて、おかしなエド」
「ジェインの方こそ、一体どうしたんだ」
「エドワード様、少々失礼致します」横から産科医が声をかけた。
「ジェイン様、お加減はいかがですか?お体の方はまだ痛むかと思いますが……」産科医はそう言って、ジェインの診察を始めた。
「……なんだか、とっても身体が痛むの?私、何があったのかしら?」心底何があったのか分からない様子で、ジェインは産科医に問いかけた。
「……痛みを取りますので、お体が楽になったら、お休み下さいませ」彼女は治癒魔法をジェインにかけると、エドワードに目配せして何も言わないようにと合図した。
治癒魔法で楽になったのか、ジェインはすぐに眠りについた。エドワードは、産科医と共に部屋を出た。
二人はそのまま隣の部屋に入り、ジェインの症状について話し合った。
「奥様は非常に強いストレスに、記憶が混乱されていらっしゃるようです」
「子ども産んだことを忘れてしまっている、ということか ……」
「今は混乱していらっしゃるだけです。ずっとこのままということはないでしょう」そういう産科医の言葉は、現実となった。
「わたくしはこんな子はいらないわ。だってそんなはずはないのよ。だって、わたくしは王家の血を引いているのよ!」ジェインは、我が子を欲しなかった。
「ジェイン、いらないと言ったところでこの子はもう生まれたんだよ。君は義父上から本当に何も聞いていないのかい?」
「お父さまから?わたくしが父から一体何を聞いているというの?こんな魔力無しが産まれるなんて、わたくしはなにも知らないわ!」
「……そんな……あの方がそんなはずはないのに……」エドワードは、更に食い下がった。
「ジェイン、本当に義父上はなにも残してはないのかい?」
「わたくしが嘘をついていると言うの?」
エドワードとジェインの問答は、どんどんとヒートアップして最後には言い争いとなった。
「あなたはわたくしを信じないのね?そんな人だとは思わなかったわ」
「ジェイン、そうじゃない、そうじゃないんだ!だが義父上ならきっと、私たちに教えてくれたはずなんだよ!」
「いいえ、いいえ、父はなにも残してはいない。そしてわたくしは魔力無しなんか産んでない。あの子は死産したのよ!!!そう届けてちょうだい」
「なんてことを言うんだ!あの子は生きている、私たちの娘だ」
「……魔力無しよ…… もうわたくしは知らない。私はあの子には関わらないわ。あなたの好きにしなさいよ。なにがあろうと、わたくしは知りませんからね!!!」
☆
エドワードは娘にアメリアと名付けたが、魔力無しということで後ろ盾を名乗り出るものがいなかった。なので仕方なくエドワードは、アメリア・ターラント、セカンドネームを持たない娘として届け出たのだった。
この子はマイラなのに……
義父上からの指示がないと、私ではこの子を王族に届けられない……
そしてこの子に、本来のアメリア・マイラを名乗らせてやれない……
力のない父を許してくれ…… アメリア
☆
十七年近くの時を経て、アメリアは『アメリア・マイラ・サンダース』令嬢として、デビューを果たした。
エドワードは、舞踏会で堂々と歩くアメリア・マイラを誇らしく、罪悪感を抱きつつ見守っていた。
エドワードが愛した父親思いの娘は、すっかり様変わりしてしまい、血統だけを誇る社交界の鼻つまみ者となってしまった。
エドワードは、自分が間違えた事を理解していた。あの、アメリアが産まれた時にあれほどジェインを問い詰めなければ……
ジェインとアメリアを育てられたのではなかったか……後悔しない日はなかった。
ただ今は、アメリアが本来の場所に戻ったことだけを、感謝して寿ぐことしか出来なかった。
ジェインは、アメリアを見て衝撃を受けた。
なぜ……なぜあの娘は、あんな場所にいるのだろう……
間違っている。お父様の血を引くはずの私の娘は、決して魔力無しではないのだ……
なのに、どうして……あんなにも堂々と準王族を名乗っているのか……




