ジェイン・オーレリー・ターラント 2
夕刻を過ぎて、父が数人の男性を引き連れて帰宅した。「今日はお世話になります」そう言って、ジェインに頭を下げたのはプラチナブロンドの一際若い男性だった。
「エドワード、早速お嬢さんに目をつけたのか」軽い口調で周りの同僚たちが彼をからかっていた。
「挨拶くらい誰だってするだろう?」むきになってか、周りに向かって彼は主張した。きっと普段からこうやってからかわれているのだろうと、ジェインは思った。
☆
「ファリアー騎士団補佐のお嬢さんではありませんか?」
そんな声をかけられたのは、学園からの帰りに街によった際のことだった。
振り向くと、そこには先日団員たちからからかわれていた青年が立っていた。
「今、お帰りですか?」学園からの帰り道と検討をつけたらしい彼は、そう続けた。
「ごきげんよう、確か…エドワード様でしたかしら?」ジェインは制服姿で出来る簡易の礼を取った。
「先日はお世話になりました。ありがとうございます」律儀に彼はそう言って、軽く頭を下げた。
「エドワード・コール・ターラントと申します。今年度より騎士団にて職を賜りました」
「わたくしはジェイン・オーレリー・ファリアーと申します。いつも父がお世話になります」
「お帰りならこのまま迎えのものが来るまでご一緒しましょう」彼はそう言って、私の荷物に手を伸ばした。
「あ、ありがとうございます。これは軽いものなので、結構です」と私は彼の手を断った。なんというか騎士団にお勤めされているれっきとした大人の男性から、淑女扱いを受けたことに困惑していた。
気恥ずかしさから手汗がでませんようにと祈りながら、エスコートに差し出された彼の手に、自分の手を預けた。
「この頃になってやっと仕事も一段落して、定時で帰れるようになりましたよ。団長補佐も家でごゆっくりされてるんじゃないですか?」
「普段はわたくしは寮の方におりますので…… ただ今日は珍しく食事の支度を頼むと、学園に手紙が届きましたの」珍しく、と言うか本当は始めてではないだろうか?
母の存命の頃には、確実になかったはずだ。父が、私が世話をやくことに、煩わしさを感じないのであればそれはとても嬉しいことだ、と思った。
それから学園からの帰り道、彼とは時折一緒になった。
「甘いものはお好きですか?」
彼からパーラーに寄って行かないかと誘いを受けたのは、最初の出会いから三か月くらいたってのことだった。
「同僚からこの店のパイが美味しいと、聞いたんですよ」彼はそう言って、私に扉を開けてくれた。
ほのかに赤く染まった彼の耳が見えて、私も同じように赤くなっているはずの頬に手をやり、うつむいた。
☆
「最近は、ターラントと会っているらしいな。あれは真面目な良い男だから、私も安心だ」と父に唐突に言われて、私は朝から飲んでいた紅茶を吹き出すところだった。
「……お、お父様」いきなりの言葉に、言葉が出なかった。
目を白黒させて口をパクパクしている私に、父は笑いながら「ターラントから直々に結婚を前提としたお付き合いの許可というのを求められたよ」と言った。
「彼と結婚することに、問題はないのだな?」
「……お父様はどう思われますか?」
「お前が彼を好きなんだったら、私はすぐさま賛成できるくらいにいい縁だと思う」
「……わたくしも良い方だと思います」父と異性について話をしているという事実に、私はもう恥ずかしいくらいに赤くなった。
「そうと決まったら、相手側の家とも話し合わないとな」父はいつもの穏やかな微笑みで、私にそう言ってくれました。
「今から話を進めて、学園卒業後すぐというのはちょっと早いな。もうしばらく私の可愛い娘でいてくれ」
「もう、お父様ったらふざけてばっかり!私はいつまでもお父様の娘ですよ」
学園卒業後しばらくは、ターラント家での家事見習いということになり、私はエドワードのお母様から色々と教えを乞うこととなった。
自分の母からは家事経営ということを学ばなかったので、私の主婦スキルは学園での授業レベルで終わっている。
あまりにものを知らないので、お義母様に呆れられているんではないかと思いながらも、色々と教わった。
「ジェインさんは素直に聞いてくださるから、わたくしも教え甲斐がありますわ」お義母様がそう言って下さったのは、結婚間近の卒業後一年ほどのことでした。
そろそろ結婚式の準備を、とお義母様といっしょに結婚後に使う布類の刺繍をしたり、招待客の情報を確認したりと細々したことがたくさんあって、忙しくも楽しい時間でした。
そして、私は父のエスコートでヴァージン・ロードを歩き、ジェイン・オーレリー・ターラントになったのでした。




