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いつも誤字報告をありがとうございます。
お恥ずかしい限りです。
ダウニング侯爵家の初夏の社交パーティーの用意が差し迫っている中、フルール・イングリッド療養所の開設が決定したのは良いものの、さすがに今は無理でしょうとこれまた先送り……ということになるはずだったのですが、小規模な療養所をダネル医師が作ってしまいました。
フルール様のお名前を戴いた療養所ということで、ダネル医師の思い入れも強かったようです。
というのも若き少年時代のダネル医師の進路に、フルール様との出会いが多大な影響を与えたとのことで、以前個人的なお茶の席でお話を伺ったことがあります。
若くして亡くなったフルール様の思い出とも言えない淡い思い出が、ダネル医師の医師としての動機づけとなったのでしょう。
元々ダネル医師のご実家は、重篤な病の方が静養するための離れ、というのをお持ちだそうでして、今回はその「離れ」に手を入れ、個室をいくつか病室として使えるようにしたそうです。
以前にミッチェル様の診察や看病をした者たちを集めて、眠り病対策チームを作成。ダグラスや私たちの預かり知らない間に、たたき台とも言える計画が出来上がっておりました。
更にダネル医師は、侍女や侍従たちのネットワークを利用して情報を集め、なんと患者まで用意していたのです!
もちろんダウニング侯爵様の許可を取られての行動ではありますが、療養所計画への執念にも似た意思に驚かされるばかり。
なんと用意周到なことでしょうか……
ダネル医師に振り回されたであろう周囲に、同情を禁じえません。同時進行の社交パーティーの準備もあり、過労で倒れる人がいなかったことに驚嘆しました。
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さて、爽やかな初夏の昼下がり。
初夏がまだ爽やかだなんて、前世との違いで一番嬉しいことですわね。ちゃんと四季が四季として存在してるんですもん。
それはともかくとして、パーティーの前準備で使用人たちはバタバタしているところです。私とダグラスは本番前に、ちょっと一息ついているところです。
侯爵様たちもご家族で集まって、水入らずの団らん中でしょう。本日はイングリッド様とマイロン王子殿下も、ダウニング侯爵家にお越しになってます。
フルール・イングリッド療養所の指揮を取るのはダネル医師となっていますが、理事に名を連ねていらっしゃるのがマイロン王子殿下ご夫妻なのです。
イングリッド様は自身のご実家にもお名前にも縁がある療養所ですから必然的に、王子殿下には名誉職と言ったところでしょうか。
マイロン第二王子殿下は、王太子殿下の元で外交を主に担われていますが、イングリッド王子妃のご実家の繋がりもあり、理事就任となりました。
「こんなにいいお天気なのに、もうちょっとしたら作り笑いしてお付き合いの会話しないとダメなのよねえ」大きめのため息を付きながら、私が言いました。
「そんな事言わずに……これも大事なお仕事だよ」苦笑いしながらダグラスが返してきます。
「そうねえ。療養所の開設案内もあるものね、コナーとシーラのお披露目もあるし」
「そう。療養所の件はまた後日に見学受付をするから、今日は本当にお知らせだけ、なんだけどね。それでも確かに社交の前には、気合というか気持ちが必要になるな」
「あら、ダグでもそうなの?だったら、わたくしが苦手なのも仕方ないわよね?ほとんど平民みたいに暮らしてたんだもの」
「誰だって、多少は気が重くなるものさ。君に限らずね。アメリーは頑張ってると思うよ。とても苦手には見えない」
「そう見えるように、とっても頑張ってるんですもの」年甲斐もなく、ちょっとばかり尖らしてみせた私の唇を彼が笑いながらつまみました。
「そんな事しないのよ」と私がダグラスの手を軽く払いましたが彼はそのまま私の手のひらに口づけをしたのです。
「今日もきれいだ」
そんなことを真顔で言われても、返答に困ります……
ダグラスは、真面目な忠義の家臣から甘い恋人モードに切り替わる時があって、私はそれをいまだに直視出来ないでいます。
「社交が苦手だったら、リプリー様の真似をするといいよ」ワタワタとする私に、続けてダグラスが言いました。
「リプリー様の?」
「そうそう、ほんわかした見た目と裏腹に、交渉事にはすごく強いんだよ」
「ええ?あのリプリー様よね?」
「そうだよ、伊達に王太子殿下の第二妃に、ってお声がけがあったわけじゃないんだよ」
ミッチェル様が眠り病で眠っていらっしゃった頃に、そんな話があったということは聞いたことがありましたが、あれはてっきり身分的な問題かと思ってました。
ダグラスが言うには、リプリー様は交渉事でご自分に有利な条件に持ち込むのが大変お上手だとか……
第二妃に、というのも実はそのあたりを見込まれてのお話だったらしいのです。
「でも、エアルドレッド侯爵様は、リプリー様の見栄だっておっしゃってなかった?」
「交渉事がお上手、というのは、基本的にリプリー様がそうしたいっていうことに限られるからだよ」
ニコニコと笑いながら相手側の懐に入って、ご自分の希望は見事に通すというリプリー様は、ご自分の興味のない事柄にはその手腕をあまり使っては下さらないそうなのです。
王室に入って権力を握ることになるリプリー様に、「こうして欲しい」と手綱を握ることが出来る方が見つからなかったので、第二妃は断念されたとエアルドレッド侯爵様が以前苦笑いとともに語られたのだそうです。
「だって、ミッチェル様がお目覚めになるまで、リプリー様はお一人でいらっしゃっただろう?」
ダグラスは、軽くウインクをしながら、リプリー様が侯爵様相手に結婚を断り続けたというその手腕を教えてくれたのだった。
ちょっとだけ若い夫婦っぽい様子を書いてみましたw




