ジョナサン・ダレン・スイフト
いつも誤字報告をありがとうございます。
申し訳ありませんが、ここでまた閑話をはさみます。
本編は12時に投稿予定です。しばしお待ちくださいませm(__)m
スイフト男爵領は、貧しく狭い領地だ。
今から12年ほど前に、父である前男爵が急死していまい突然、私ことジョナサン・ダレン・スイフトが跡を継ぐことになった。
当時の私は学園を出たばかり、父の付き合いのあるダウニング侯爵領内の令嬢との見合いをそろそろ……という話が出始めた頃だった。
父も私も然程魔力量が多くなかったので、身分にはこだわらないが、魔力量の多い女性を探していた。
が、領主自らが率先して働いているような小さな領に来ても良いと、見合いを受けてくれるような女性は少なかった。
そんな矢先の父の急死である。領内が落ち着かず、混乱などで苦労するのが目に見えているからか、ただでさえ少ない見合い話も潮が引くように消えていった。
それからは、ほとんどの人が想像する通りの没落である。
両親と私の三人の魔力量でなんとか遣り繰りしていた魔力充填は、頑張っても立ち行かなくなり、農地からの収穫量は落ちる一方だった。
税金や領民の食事情なんかは、貧しいながらも必至に蓄えていた備蓄を放出しつつ、数年間なんとか耐え凌いだ。
そうこうしているうちに母が倒れ、今度は私一人に領内の魔力がのしかかってきた。
削れるところは必至に削り、もうこれ以上は爵位返上も必至かというところで、ダウニング侯爵様から土の改良を試してみないかと言うお声がかかった。
きっと、うち以上に切羽詰まっているところはなかったのだろう。ある日サンダース伯爵令嬢が一人の平民を伴ってやって来た。
「これを畑の土に混ぜてから、育ててみてほしいんです」そう言って彼女は、袋に入った黒くふかふかとした土を私に見せた。
「わたくしが毎回ここに来るわけにも行かないので、今後彼に相談して下さい」と紹介されたのが、クィンシーだった。
彼は元子爵家の次男だが、魔力量が極端に少ない為に学園卒業後平民落ちとなったとのことだった。私もあまり魔力の多い方ではなかったので、ひょっとしたら私も彼のようになっていたかもしれない、という同情めいた気持ちが湧いた。
彼からすれば、男爵とは名ばかりの貧乏領地の小作人のような私に同情されるなど、大きなお世話だっただろう。
クィンシーは、うちの畑で薬草を育ててほしいと言った。出来た薬草はサンダース伯爵家で必ず買い取るという文書化した契約書を作ってもらい、私と領民たちは農作物と一緒に薬草畑をたくさん耕した。
サンダース伯爵令嬢が持ち込んだ土を、スイフト領のスカスカした土に混ぜると、水分をよく含んだ良い畑になった。
クィンシーが持ち込んできた肥料はよく効いて、薬草畑は青々とした葉をよく茂らせた。収穫した薬草の一割程をクィンシーがポーションにして、領民に配布して下さいと言って渡してきた。
「君は薬師だったのか。だが、こんなにポーションをもらってよかったのか?頂けるのであれば、有り難くはあるのだが」そういう私に彼は、サンダース伯爵令嬢からの采配です、と言った。
「自分たちの作るものの効果を知って、誇りに思ってもらいたい」と令嬢はおっしゃったそうだ。
施しでも救済措置でもなく、誇りに……
その言葉に私はこみ上げるものをこらえることが出来なかった。
豊作だった薬草は、良い値でサンダース伯爵家に買い取ってもらえた。その実入りで、それまでは援助してもらっていた肥料を買い領内の畑に配布した。
もちろんそれとは別に、肥料やら品種改良やらのサンダース伯爵家との共同開発は行っていた。
ポーションの薬効を上げるのに土や肥料を試し、農作物向けの肥料なども調整し、少しずつ収穫量が上がり、領経営にも気持ち程度ではあるが、将来の見通しが明るくなってきたのだった。
そうやって少しずづスイフト領が豊かになって来た頃、何やらもの言いたげなクィンシーがやってきた。
「どうしたんだ。さっきから何度も意を決してる様子で。他人の気持ちに鈍感な私でもいい加減気がつくぞ」
「……実は、実家の妹がアメリア様の護衛騎士をしてたんだが……」
「ああ、以前に聞いたことがある。近衛騎士になったとかって言ってたな」クィンシーが、嬉しげな様子で妹の話をしていたのは、まだ春先のことだった。
「どうも、あまりはかばかしくないらしいんです……」
「はかばかしく?どうしたんだ」
「……いや、やはり教育が足りてなかったらしくて…… 近衛を馘首になるらしいんですよ」悄然とした様子のクィンシーが語るには……
妹のグエン嬢は張り切って近衛騎士として、第二王子妃殿下のイングリッド様のお産みになった姫様の護衛をしていたらしいのだが、どうも淑女教育からして不足していたせいか勤務態度に問題あり、と早くも降格の対象となってるそうだ。
外聞が悪い上に退職して実家に戻るにも、実家の両親とも折り合いが悪いので、グエン嬢の嫁入り先を探しているというのがクィンシーの屈託の素だった。
「それで、私に話を持ちかけてみようと思ったんだな?」
「ええ、グエンは騎士をしていたので体力はありますし、畑仕事にも忌避感はありませんから……よろしければ……と思いまして……」
ぶっちゃけると、グエン嬢も貧乏暮らしには慣れている、ということだな……




