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いつも誤字報告ありがとうございます。
「久しぶりね」
お茶会の主人役を務めて、私は眼の前の客に向けてカップを傾けてみせた。
久しぶりにあった彼女は、優雅な手つきで私と同じようにティーカップの紅茶を口にした。
王宮の一室で、私はシーラを対峙していた。
サンダース家のお義母様は、しっかりとシーラをしつけて下さったわね。私は、シーラにお茶菓子を勧めながら思った。
ちょっとばかり意地悪をして、ポロポロとこぼれて食べにくいパイ生地をたくさん使ったクリームサンドを出したのだが、シーラは上品に食べている。
「先日コナーから報告をもらったのだけど、結婚なさるんですって?」
「はい、披露はダグラス様やミッチェル様への報告後となってますが、婚約期間も一年を超えましたしそろそろ……ということになりました」
「結婚後はどうなさるの?」
「ダグラス様からリプリー様付きの侍女にどうかとお話をいただいております」
「あら、そうだったの。と言うことは基準はクリアした、ということね」
「おおよそのことは習得したと、サンダース伯爵夫人から認めていただきました」
「なら、わたくしから言うことはないわね。結婚披露に関しても、サンダースのお義母様と話合って決めてちょうだい」
「ありがとう存じます」
「で、ここからは内々の会話ということに……」
といって、私が切り出したのはシーラの実家の話だった。
「どうもご実家の方たちを招待しないわけにはいかないわよね……」
「……はい、わたくしもそこが気が重くて」
実際にシーラの目からは、光が消えている。どうしてもお互いに「……」の多い会話となっている。
披露といっても、前世のような披露宴を行うというようなことはない。何と言ってもダウニング家の一部下の結婚の話なのだ。
実際にはダウニング家の開く社交上の集まりで、結婚の挨拶をする、と言う感じに落ち着く話なのだが、その際にターラント子爵家も招待しないわけには行かない、と言うところに、私たちは暗い気持ちを抱えている。
シーラは、コナーとの婚約期間中に、コナーたちがダウニング侯爵家に仕えるようになった経緯を聞いているらしく、その時に私が「アメリア・ターラント」であったということを教えられたらしい。
さすがに私を姉と呼ぶことはない。既に切れた縁の事は、理解しているらしい。自分が私に引き取られた理由についても、コナーから説明を受けたそうだ。
「あの方、絶対に問題を起こすと思うのよ」
「あの方とおっしゃるのが、ジェイン・オーレリー・ターラント子爵夫人、つまりはわたくしの母のことでしたら、それはもう確実かと、思われます」
「エアルドレッド侯爵様とかリプリー様に、失礼な物言いをしないか、心配なのだけど……」
「アメリア様、前例に習うならそれはもう太陽が東から登るのと同じくらい確実にします」
「……エアルドレッド侯爵様が不敬を問わないのを良いことに…… ダウニング侯爵様ともエヴァレット・マイラ様を介して血縁関係なのよね…… 今から頭が痛いわ」
「アメリア様に親戚どころか、娘扱いをしてきませんでしょうか?わたくしはそこが一番心配なのですが……」
「ああ、そこはそれほど心配しなくても大丈夫と思うわ」
「そうでしょうか?」
「ええ、だってわたくし、あの人と会ったことないんですもの」
「……はい?あの、母と会ったことがない、というのは?」
「産まれたばっかりとかはあるかも知れないけど、物心ついてからターラント子爵夫人と面と向かって会ったことはないわね。自分が産んだ長女のことなんか、記憶にもないんじゃないかしら?だから、きっとわたくしのことはエアルドレッド侯爵家繋がりの親戚だと思ってるでしょうね。あるいは侯爵様の隠し子あたりかと……」
「……」
驚きのあまり、シーラは言葉も出ないようだった。
「自分の人生に無魔力の子は必要ない、ということでしょうね。いっそ潔いわよね」
「だからね、本当にターラント夫人はわたくしに親せきぶって話しかけてくることはあっても、わたくしを娘扱いすることはないと思うわよ」
それはそうとして、私はシーラに聞いておきたいことがあった。
「コナーから説明を受けていると思うけれど、一応確認しておくわね。あなたはわたくしの立場について、どう思っていらしゃるの?」
対面で貴族らしさの欠片もなく、ハッキリと聞いてみた。
「わたくしは今現在コナーの妻になることに、満足しております。侯爵家にお仕えする立ち場に、感謝しております」
「あら、もっと本音で語ってくれても良いのよ」
「本音でございますか?」
シーラは少し考え込んでから、言った。
「本音で言うなら、王宮での社交をする必要もなく、面倒な領地経営もしなくて良い、従属の伯爵位を持っている夫に嫁げるって、幸運だったな……と」
サンダース家の義母の教育を受ける前の素のシーラが、いかにもニヤリと言う笑みを浮かべていた。
「ふふ、安心したわ。では、リプリー様の侍女というのも、きちんと責務を果たして控えてくれるのね」
「浅学非才の身ではございますが、精一杯お仕えいたします」シーラは、そう言ってきちんと淑女の礼をとった。




