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幸せそうなスイフト男爵とグエンを見送って、私は残ったクィンシーとそのまま雑談となった。
「二人が仲良くて何よりだわ」
「ええ、本当に有難い御縁ができまして喜んでおります」
「それにしても、前男爵夫人のお教えが良いのかしら、グエンも見違えるくらいに所作が美しくなったのではない?」
「他の領地に、下男やメイドの職を得て家計を支える子女などもいるらしくて、領民の子どもたちは夫人から読み書きと行儀作法を習うのだそうです。そこで、グエンも夫人から所作を学び直しているそうですよ」
昔の日本で言うところの、寺子屋のようなものね。礼儀作法や読み書きはあって邪魔にはならないし、ある程度下地があれば雇う側も重宝するはず。
「それはいいわね、グエンも将来は子どもたちに指導する立場になるものね」
「グエンも今のところ、読み書きや剣術指導をしているそうで、男子たちから喜ばれているのだとか……」
笑みを浮かべたクィンシーは、誇らしげに言った。騎士だけではダウニング領内の警邏も間に合わないでしょうから、その手足になって働く兵士も数は必要だしね。
スイフト男爵は領の運営に忙しくて、剣術指導までは手が回らなかっただろうから、確かに喜ばれるでしょうね。
「ハーブティーの件だけど、悪いけどスイフト領の占有というわけには行かないので、そこは上手くやってちょうだい」
「占有などしたくても出来ませんよ。そこは男爵もお分かりだと思います。第一、耕作地を全部薬草畑にしたところで、量を確保できないでしょうから」
「そこを理解してくれているなら、良いのよ。王国内に向けて、となると残念ながらスイフト領だけでは足りないし、他の地方にも作るように指導していきたいの」
「ええ、分かっております。ただ、スイフト領ほど上手くは行かないでしょうね。あそこは切羽詰まっていたからこそ、平民の私でも尊重してもらえたので……」
「だからこその子爵位でしょ。侯爵様も期待しているのよ、ダイアー子爵」
「かしこまってございます」
クィンシーは、半ばふざけて手を胸に当て片足を引いて、貴族の礼をしたのだった。
「それで、さっきの平民が魔石に充填する話だけど……」
「ええ、グエンがスイフト男爵に嫁いで、あちらの生活の話をしてくれた際に聞いたんですが、ダグラス様のお役に立つかもしれない、と思いまして」
そう言ってクィンシーは、頭を下げた。
「ありがとう。きっと役に立つわ」
ミッチェル様ほどの魔力量のないダグラスには、ダウニング侯爵領全体の土地に充填するのは難しい。
ミッチェル様の事故の後遺症が発覚して、治療後の彼は私が知るミッチェル様とは打って変わって穏やかさを示しているらしいので、今後は領内の魔力充填も滞りなくしてくださるかもしれない。
だけど、ミッチェル様お一人がそれを負担するというのは、差し障りがあると思うのですよ。代わりがたくさんいるならともかく、たった一人に頼り切りになる、というのは言い換えれば、その一人がいなくなると、周りが立ち行かなくなる、ということだ。
現実にミッチェル様が病気のせいで、満足に充填できなかった時ダウニング領内では、収穫量が落ち込んだりと低迷した土地もあったのだ。
先程聞いたスイフト男爵領の魔力充填の話は、この話の解決の糸口になると思われた。
その夜、私はダグラスに長い手紙を書いた。
☆
ダウニング侯爵邸にて
「となると、魔力の代価を何にするかということを考えねばならんな」侯爵様がおっしゃった。
今、私のまわりには、ダウニング侯爵夫妻にミッチェル様ご夫妻、ダグラスに、侯爵家のダネル医師を始めとしたブレーン集団と、私のブレーンになるコナーにケイリー、クィンシーといったダヴァナー領の幹部たちが集まっています。
私のブレーンが幹部?と思うと、なんだか不敬な気もしますが、実際にはダウニング侯爵家の新たな仕事、マッサージ師や薬師という分野の今のところ第一人者なので、省くわけにも行きません。
「長く迷惑をかけたけれど、私の体調も万全となったので、魔力充填には支障はないんだよ」
艷やかな銀髪をなびかせて、それはもう穏やかな様子でミッチェル様が言われました。
誰よこれ?と、ミッチェル様でしかありえないと分かっていても、そう思わずにはいられません。
確かに長の眠りから目覚められて初めてお会いした時は、こんな風に微笑みかけられてドッキリした記憶はあるものの、それ以降の印象が悪すぎて、私のイメージするミッチェル様と今目の前にいらっしゃる方とが結びつきません。
「いや、全て一人に任せるのは、やはり負担が大きいから、領の運営を健全に進めるための施策だよ」と侯爵様がミッチェル様に説明されています。
侯爵夫人もリプリー様も、慈愛の眼差しでお二人のやり取りを見ておられます……
……何を見せられているのかしら?ドラマならものすごくいいシーンなんだろうけど、俳優さんに感情移入ができないわ。
いや、ホントこの下りはご自宅で済ませてきてほしかったです……




