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私のマイナスイオン発生機ぶりも役に立ったのか、王太子妃殿下のご出産もつつがなく終わった。
お産まれになったのは、王子殿下でした。これで後継者問題にもとりあえずの終止符を打つことが出来たのでした。
ま、その王子が、まともに育つかどうかでまたその問題が再燃する可能性は否定できないんだけど……
そのあたりはまた十年後くらいまで、先送りにしたい。
他人事ながら、あと二、三人くらいお産みになってくださったら、良いなと切に思う。これには、ミッチェル様の存在が常に頭をよぎるからなんだけど……
ダウニング侯爵家に、子どもが二人しか居なかった、というのがまず問題。そのうちの一人が嫁として外にでたのも問題。残った一人が事故にあって、命は助かったものの後遺症で……というのが大問題だったわけなんだけど。
ダウニング侯爵家でダネル医師と共に治療に当たってるケイリーの話に寄ると、いい感じに落ち着いてきているらしい。
ものすごく意外なんだけど、ダグラスもミッチェル様が事故以前の時の健やかさを取り戻された、と彼にしてはものすごく感情を顕にして語ってた。
医療チームが髄液の漏れを見つけ出して塞いでからは、ミッチェル様の情緒も安定してきたらしい。
やっぱりご自身ではなんとも説明できない不定愁訴、というやつに振り回されてらしたのね〜。と同情はできるんだけど、私は以前のミッチェル様というのを知らない上に、ずっと王宮に詰めているので、あんまり実感はないのよね。
王宮に詰めている、というのもやはり産まれたばかりの王子殿下ハドリー・セオドリック様の魔力が多くて、ご本人がいわゆる「癇の強い赤ちゃん」な所為なのよね。
ちょっとしたことでお憤りになるので、マイナスイオン発生機は欠かせない状態になってます。
私って、セレスティン様の乳母じゃなかったのかしら?と頭をひねるも、産後の妃殿下の安静もまとめて面倒見ているので、一家に一台っていう便利用品扱いになってます。
そういう理由で、先日行われたグエンの結婚披露なんかもお祝いを送って、済ませたのよ。
一応私の庇護下にあるので、本来ならもうちょっと面倒見るべきなんだろうけど、その辺もクィンシーに任せっきりになって申し訳ない。
クィンシーは、「準王族のマイラ様の名代で披露宴を取り仕切って、実家の両親にも溜飲が下がるくらいにでかい顔をさせてもらったので、感謝している」と言われた。
まあ、あそこの家は「長男教」の信者だからね〜。家から追い出した低魔力者の息子が、手塩にかけた長男よりも位が上がってるんで、肩身が狭かったでしょうよ。
出世っていうのも、クィンシーも農地開発と薬草の品種改良が認められて、ダウニング侯爵家から子爵位を授与されたのよね。もちろん従属爵位ではあるんだけど。
クィンシー・アモリー・ダイアー子爵
ちなみにアモリーは、アメリアをもじったセカンドネームです。コナーとケイリーにも同じようにアモリーの名前を渡しているので、私の庇護下っていうことが、少なくともダウンニング侯爵家では認識されている。
ちょっとばかし教養の面で足りてない嫁をもらうことになるスイフト男爵にもメリットがないとね、と準王族との繋がりがあるよって強調しとくことにした。
スイフト男爵にしたら、クィンシーとのコネが太くなるだけでも良かったらしいけど、クィンシーが侮られるのも困るのよね。これから薬草やらポーションやらを、どんどん広めていきたいので。
「楽にしてちょうだい」
私は眼の前にいるクィンシーとスイフト男爵、グエンに向かって言った。
三人は作法通りに、腰を下ろした。うんうん、グエンも婚家のお義母様のお教えが良いのか、騎士時代よりもいい感じの所作をしている。
礼儀正しく世間話やら、私が送ったお祝いの礼とかの話題の後、クィンシーが切り出した。
「領地の魔力不足の話なんですが……」
「あら、スイフト男爵領でも、困っていらっしゃるの?」
「いえ、アメリア様、男爵領ではジョナサン様の試みでここ何年か、魔力は不足していないそうです」
「どうなさってるの?」
ミッチェル様の事故の後遺症が原因で、ダウニング侯爵家は全体に土地への魔力充填が足りていない。
ダウニング侯爵様や魔力量の多い者が計画的に頑張っているのだが、それでもダウンニング侯爵様は加齢から魔力量が下がって来ているし、他の人は単にミッチェル様の魔力量に及ばない。
自分の領地を持っているものは、やはり領地を優先するのもあって、ダウニング侯爵領全体、となると手の行き届かないところ、というのは出てくるものなのだ。
スイフト男爵領は前男爵を早くに亡くし、突然の代替わりとなり、魔力充填に苦労したらしいことは、グエンが嫁入りする前の調査で分かっていた。
それもクィンシー主体の農地開発やら肥料の研究なんかで、領経営自体が上向きになっていると、これまた調査で知っていたのだけど……
「農地開発だけが経営上向きの原因ではない、ということ?」
「ええ、そう思われます」神妙な顔でクィンシーがそう言った。




