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「ねぇ、あなたの結婚相手が決まったわ」私はシーラに向かって言った。
「一体どんな方なのか、わたくしには全く検討もつきませんわ。教えていただけるのでしょうか?」慇懃無礼な態度で、シーラが答えた。
私にそんな態度を取ったところで、自分に何の得もないというのに、ほんっとに頭悪い……
「わたくしの秘書をしているコナー・アモリー・ダービシャー伯爵 ダウンニング侯爵家から従臣伯爵位を頂いてるの。元はニックス伯爵家の三男ね。そことは縁が切れているから付き合う必要はないわね」
「その方との御縁が生まれなかったら?どういたしましょうか」薄ら笑いを浮かべてシーラが問う。
「……あなたには後がないって、言わなかったかしら?わたくしがあなたから手を引いたら、ご実家に戻るかダウニング侯爵家から遠く離れたどこかの土地で巡回騎士をするか、好きな方を選べばよろしくってよ」
私が突き放して言うと、途端に顔色を悪くするシーラ。
「コナーの方だって誰も引き取り手が居ないので、それならと手を上げてくれているのだから、どうしてもあなたと結婚したいわけじゃないと思うわよ」
「……」私にキツい視線を向けつつ、シーラは不満を顕にした。
「あのね、社交界であなたのお母様の評判の悪さって聞いたことはないの?社交界というか、エアルドレッド侯爵家での評判というのが正しいかしら」
何を言われているのか、分からない様子のシーラに私は説明する。
血縁関係をやたらと強調してすり寄ってくる子爵夫人、王家とうっすらと血がつながっていることを理由に高圧的な子爵夫人、と誰もがそう思っているけれど、絡まれて敵対するのも面倒だしそれほど権力もないので見逃されている、というあけすけな事実を丁寧に語ったところ、シーラは恥辱に震えていた。
自分でもそうかも、と思っていても他人から言われると事更に堪えるよね。
「ダウニング侯爵家からの縁談ということで、わたくしがあなたを引き取ったわけだけど、断ってご実家に帰るなんて、あなた、自分の身がどうなるか考えたことはないの?」
「……」私の問いかけに薄っすらとあった答えが、現実味を帯びたらしくシーラの顔から血の気が引いていた。
この子は本当に淑女教育が足りてない。自分の安全を確保しようとする生存本能すら、こんなに欠けていて大丈夫なのかしら?
「ご実家でお母様の嫌味とか嫌がらせに耐えながら、この先の人生を生きていきたい、と思ってるんなら好きにしたら良いと思うけど…… それは一種の自殺なんじゃない?」
ここらでこの思慮の浅い妹に、上下関係というのを叩き込んでおくべきでしょうか。
「ダービシャー卿と結婚してダウニング侯爵家内で暮らしていくなら、周囲はあなたを表向き尊重してくれるわよ。彼はここで一目置かれているから」
「表向き……なんですか?」
「淑女教育が足りなくて、近衛を首になるような子爵令嬢なんて、ダウニング公爵の寄子中を探しても居ないもの。でもあなたを引き取る事情を察して、社交辞令でのお付き合いはするでしょうね。社交辞令以上のものに出来るかは、あなた次第よね」
今は身の置き所も無さそうな顔をしているシーラ、でもしばらくしたらまた忘れて反抗的になるのかしら?
「どうしてわたくしを引き取ってくださったんですか」
「あら、以前に伝えたと思うけれど……聞いてらっしゃらなかった?」
「血縁関係とお伺いしました」
「そうね、どこに居ても貴族院の監視下に置かれるなら、わたくしが側において見張ろうと思ったのだけど…… それで、どうなさるおつもり?」
「謹んでお受けいたします」シーラは珍しくきちんとした淑女の礼を取って答えた。
ふうん、さすがに体幹がしっかりしてるから、様になるわね。それでも、このままでは社交でとんでもない発言をして、コナーに迷惑をかけることになるかもね……
「あなたにはしばらく行儀見習いに、行ってもらうのが良いわね」
「行儀見習いですか?」
「ええ、そう。学園で習ったはずのことが身についていないんだから、もう一度おさらいするに越したことはないでしょう?」
「ダービシャー卿は伯爵なんだから、伯爵夫人になるあなたが彼の足を引っ張るようでは困るのよ」
「従臣伯爵位って、なんですか?」
「……あなた本当に学園を卒業したの?」私は驚きのあまり、思わず聞いてしまった。
「あ、あの、そ……」シーラは顔を赤くして、口ごもりながら言葉にならない言葉を出そうとしていた。
「従臣というのは、この場合はダウニング侯爵家に忠誠を誓ってそこで働く家臣、という意味になるわね。法衣貴族というのは分かるでしょう?」
「……えっと、領地を持たない貴族のことですよね?」
「そうね、王宮に務めるに当たって一時的に授爵する方たちね。従臣爵位というのはそれに似てるけど、授爵して下さるのが侯爵家だったり公爵家だったりと言うのが違うところね」
ダービシャー卿はダウニング侯爵家から伯爵位を頂いてるの。侯爵家が認めてくださってるので、あなたたちに子どもが出来てもそれを継ぐことが出来るわ。領からの報酬で家政を賄うことになるから、そのへんもしっかりと教育してもらうことにしましょう。
私は、シーラにそう告げた。
従臣爵位に関してでっち上げました。この世界ではこうです!




