クィンシー 2
クィンシーとグエンの再会に、遡ること数ヶ月。
「クィンシー、あなたの妹のグエンが、近衛に加わることになるらしいわ」
「アメリア、それって……」
アメリアの話では、アメリアの実妹シーラとクィンシーの妹グエンが、貴族院の目に留まって今後監視を受けることとなったそうだ。
シーラの方はクィンシーにも分かる。アメリア・マイラの実妹だ。彼女の結婚は国を上げての監視事項だろう。だが、グエン?何だってグエンが、監視対象になるっていうのだ。
「思った以上にあなたたちが有能だった、ということよ」アメリアが俺に説明してくれる。
学園の卒業後、俺を含む、ケイリーとコナーの低魔力の三人はダウニング侯爵家に世話になり働いている。
魔力腺のマッサージを行うことで、体内に滞る異分な魔力(他人の魔力)を排出する事がダネル医師とアメリアの研究で判明したこともあり、マッサージ対象者の魔力腺を認知できる低魔力者の価値が跳ね上がったのだ。
その中でもマッサージに特化したケイリーや、ポーション作成や肥料開発の分野に進んだ俺と、各分野に精通しつつそれを領主代行のダニエル様やアメリアに報告し、点と点をつなぐことが出来るコナー。
王国全体で、低魔力者と侮られていた者の持つ能力値が再確認されて、縁談で低魔力者が生まれるも良し、ということでその血縁関係を見直すこととなったらしい。
いや、俺達は自分を拾ってくれたアメリアや侯爵様に、損をさせたと思ってほしくなかっただけなんだ。
アメリアにそれを告げるも、一蹴された。
「何を言っているの。わたくしは案を出しただけ、それを使えるように練り上げていったのはあなた達でしょう。低魔力者だからって、結婚を忌避されることもなくなっているのよ。だって、低魔力者の中にも能力の高いものがいるって示されたんだから」
これは、あなたたちの功績でしょう?アメリアは、鼻が高いわと言って笑った。
そのうちあなたたちの縁談も整うでしょうね、って、話がそれたわね。グエンの話よ。
そう言ってアメリアは、グエンの家で受けていたであろう教育の質問をしてきた。
「以前聞いた話では、お兄さま以外にはあまり手をかけられていないってことだったけど……」
「ああ、そうだな、グエンも淑女教育も学園で受けた授業が全てだろう」
「となると、近衛というのは結構敷居が高いわね。私たちのせいで目をつけられてしまったけど、淑女教育が足りてないというのは、致命的よ」
「すると……どうなる?」
そうね、とアメリアは少し考えてから、言った。
「あの程度で近衛に入れるの?と言う目で見られることになるわ。嫉みというのは馬鹿にできないものよ。そして、頑張ってもそれに応えられないでいるうちに降格される……っていうところかしら」
「……俺達も……」言いかけて止めたが、彼女は続きを言った。
「そうね、私たちも妬まれているし、失敗を待ち構えている人がたくさんいたわね。ただ私たちにはダウニング侯爵家とマイラの名前があったのよ。後ろ盾があるのとないのとでは、全く違うでしょう?」
おそらくグエンもシーラも、それに対応できないと思うわ。だからクィンシー、グエンの面倒を見てやってね。
アメリアは、学園で俺達を引き上げると決めた時のように、何気なく言った。
グエン……俺の妹じゃなかったら、もっと身の丈にあった仕事に就けたんだろうが、悪かったな……
「クィンシーがいれば、グエンだって悪いようにはならないでしょ」
「そうだな、彼女は俺の可愛い妹だからな、誓って面倒を起こすようなことはさせない」
「あら、そのへんは信用してるわよ」アメリアは、何ていうことないように言ったが、それに俺達がどれほど感謝をしているかを知ることはないだろう。
食い詰めていずれ後ろ暗いことに手を出していたかも知れない俺達が、授爵とか言われているのだ。
俺の授爵理由であるポーション作りや農地開発だって、元を辿ればアメリアの肥料作りが切っ掛けだ。俺達は、その全てをアメリアに負っている。
「で、俺達の関係、と言っても残念ながらただの同級生だけどね。それはグエンには秘密にしておいたほうが良いのかい?」
「言う必要はないけれど、どうしても黙っておくというのも無理かもね。でも話すなら、あなたが彼女を確実に把握してからにしてちょうだい。リプリー様の親戚と言う立場は、使い勝手が良いのよ」
アメリアはくすくす笑って、実際にも親戚ではあるんだけどね、と言った。
あの日の話し合いから数カ月
彼女の読み通り、グエンは俺の保護下にやってきた。
「それなら、わたくしはその方に嫁ぎます。お兄さまが問題ないとおっしゃるのなら、良い方なのでしょう。それにわたくしに選択権はないと思うの……妻に、と言ってくださる方がいるだけで感謝すべきでしょう」
可愛いグエン……
大丈夫だ、兄さまがお前に苦労はさせない。スイフト男爵は、貴族の中では心底誠実な良い男だし、だからこそ領の経営で腐心したんだが。
「大丈夫だ、グエン。スイフト男爵は誠実で裏表のない方だよ。それにあまり規模の大きい領でもないから、社交で苦労することもないだろう」
「心配なんてしてないわよ、お兄さまが勧めてくださる方なんだから、安心して嫁げますわ」
グエンは、子どもの頃のように安心した顔で、笑った。




