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誤字報告ありがとうございます。
たいへん助かっております。
「ミッチェル様のご機嫌が、最近は更に悪い」
夫のダグラスが、言いにくそうに私に言います。
「あの方は前からあなたに当たりがきついじゃないですか」サラリと言う私に向かって夫は、そんなふうに言うもんじゃない、といかにも忠臣というふうに私をたしなめます。
多分ミッチェル様は、博識で周囲からも一目置かれるダグラスに嫉妬と甘えがあるのでしょう。
実の父親であるダウニング侯爵にセカンドネームを与えられたダグラスのことを、自分を差し置いて、とかでもダグラスは自分に仕える立場である、とか色んな気持ちが混ざり合って、変なふうにこじれているのだと思われます。
ほんっと、中学生なの?とか言いたいんだけど、残念ながらこの言い方が伝わる相手は今世には居ない、と思われる。
「最近は、領地への魔力充填も嫌がられるようになって……」
領地への魔力充填は、私が思うに領主の一番初歩で最大に必要とされる仕事です。
農家では、魔力充填をされた土地とそうでない土地では、格段に収穫量が違うからです。また、土木工事を行うにしても、土の扱いやすさが違うし、なんなら強度を計算せずとも橋を渡せるのです。
ダグラスのミッチェル様の仕事補佐の内容には、領内の土木工事やら建設、農地への魔力充填といったことへのスケジュールを立てる、というのがあります。
ダウニング侯爵領は王国内でも豊かな農地を持っているます。そしてそれは、魔力を必要とする土地がたくさんあるということです。
ダグラスは元々ダウニング侯爵家の遠縁で、寄り子の立場にある家の出です。魔力量で言えば、ミッチェル様には遠く及びません。
もしダグラスとミッチェル様の魔力量が同じくらいであったなら、ダウニング侯爵様は次期ダウニング侯爵をダグラスに、と言われたかも知れません。
現実にはミッチェル様には妹のイングリッド様がおられるので、マイロン王子殿下が婿に入ってイングリッド様が家を継ぐ、ということのほうが有り得そうですが……
今のところミッチェル様は「お飾り」と周囲に認識されるような事にはなっていません。
これはひとえにダグラスが、ミッチェル様を立てているからです。
「ダグ、ここまでは良いけどそれ以上はダメって、あのクーデターの時みたいにちゃんと線引はしてね、でないとあなたが潰れてしまうわ」
「アレのせいでミッチェル様は私を信用されなくなったんだが……」
「そうね、本来ならあんな裏切りをする前に、ミッチェル様を諌めなくてはいけなかったのよ。でももう済んでしまったことよ」私が言うと、ダグラスは裏切り……とつぶやきました。
「ダウニング侯爵家には忠義だと思うけれど、ミッチェル様にとってはあれは確かに裏切りだったと思うわよ」
面倒くさい方ではあるのだけど、私はミッチェル様をそれほど嫌いにはなれません。やり方は拙かったし、クーデター等と大事をしでかす前にやれることはもっとあったはずだと思いますが…… ミッチェル様は確かにあの時、身内だと思っていた人に背を向けられてしまったのです。
ミッチェル様にとっては、側にいてくださるリプリー様だけが信に足る方なのでしょう。そのリプリー様は、意外にも私やダグラスを良いように思って下さっているようなのですが。
私とダグラスが話している部屋に、執事が入ってきました。夫婦の団らんの時間にどうしたことでしょう、と思っていると、どうやらケイリーが訪ねてきたようです。
ケイリーがいかにも済まなそうな顔をして、突然の訪問を詫びます。
「いきなりのご訪問、申し訳ありません。ただお知らせしておいたほうが良いかと思いまして」
「どうした?」
「ミッチェル様がご病気になられるそうです」
「はあ?」ダグラスがいつになく驚いて声を上げます。
「いえ、ファーナビー領への魔力充填を病気ということで休む、という話をされてたんです」
「ケイリーに?」と私が口を挟みます。
「いえ、リプリー様にお話されてました」
「あなた、それをどうして知ってるの?」
「どうしてって…… あのですね、施術中だったんですよ」
ミッチェル様は、今でも週に一度くらいですが、魔力腺のマッサージを受けておられます。
「……」呆れてものも言えない、というのはこういうことでしょうか?
お殿様育ちにしても、ここまで目下の者を居ないものと考えるって……
「分かった、知らせてくれて助かったよケイリー」
「いえ、私も施術中のことなので、知らせていいか迷ったんですが……」
確かに、医療中に知り得た情報なので、守秘義務があるかと問われると……って、厳密にはどうなんだろう?でもこれって、医療上知り得た秘密とは言い難いと思うのよね。
「ダグラス様、至急ということでお手紙が届いております」再び執事が封筒を手にやって来ました。
「直ぐに返事が欲しいと、使者が待っております」と、緊迫した様子の執事。
封筒を受け取ったダグラスは、封蝋を見て慌てて開封し、手紙を読んだ。
「誰からなの?」
「リプリー様からだ」ダグラスは、低い声で答えた。




