リプリー・ネヴァ
リプリー・ネヴァ・ダウニングは、結婚生活を満喫していた。
夫のミッチェル・ローワン・ダウニングは、ダウニング侯爵家の嫡男で、子供の頃からのリプリーの婚約者だった。
もうすぐ結婚という頃に、彼が馬車の事故に合い運悪く眠り病についてしまった。
この魔力の多い高位貴族に出る病は、眠ったまま死出の旅に出るという、言わば不治の病だった。
リプリーは幼い頃からの初恋同士の婚約者と結婚できるのを楽しみにしていたのに、彼がもう二度と目覚めない、という現実に絶望した。
自分を憐れむ作業に没頭していたが、ある日ふと周囲を見回せば、そこには自分が結婚できるような高位貴族の独身男性が居ない、という状況に冷水を浴びたような気持ちになった。
王太子殿下の第二夫人に、という救済措置のような求婚の打診に屈辱を覚えつつも前向きに……と思っていたら、「恐れ多いことでございます」等と言って両親が辞退していた。
「あなたの浅い考えで出来るわけもないでしょう」という母の意見に、父も顔を縦に振りながら「自分の能力を考えなさい」と言った。
政治的な問題や対立派閥の取りまとめなんかは、王太子妃さまがされるだろうし、出来なくもないんじゃないかなあ……とリプリーは考えつつも、わざわざ自分への評価の下がる所に近づかない方が良いのか?とか、でもこのままでは領地の父の部下あたりとの結婚が待っている、とか主に見栄に基づいた自分の結婚観に振り回されていた。
そう、リプリーは大層見栄っ張りだった。
ミッチェルとの婚約は、その点から考えても非常に満足の行くものだった。
彼は侯爵家の跡取りで、その優れた容姿で学園では女生徒たちに大人気だった。その彼と結婚する、それだけでリプリーの自己肯定感はこの上なく満たされた。
それが、彼が眠り病で目覚めない現在、リプリーは結婚相手に事欠く家の厄介者になっていまったのだ。
リプリーの家族に代わって言うなら、別にリプリーが結婚せずに家に居続けたとしても、それを支える経済力がエアルドレッド家にはあったので、誰も彼女を厄介者だとは思っては居なかった。
ただ、ちょっとばかり機嫌の悪い彼女と過ごすのが面倒だなあ、位の極めて真っ当な気持ちでいただけだった。
その後、眠り病への対処法が見つかり、奇跡のようにミッチェルが目覚め、リプリーに連絡をくれた。
このままでは「求婚者の居なかった女性」という目でみられるか、爵位の低い父の部下か親戚筋の男性に嫁ぐか、という道しかないかもしれない、と考えていたリプリーは、ミッチェルの気持ちが以前と代わっていないことに天にも昇る気持ちになった。
ミッチェルに求めてほしい気持ちから、他の縁談(とっくにたち消えた王太子殿下の第二夫人の話)をちらつかせて、ミッチェルへの危機感を煽るという馬鹿な駆け引きを試みた。
リプリーもまさかこんな稚拙な話を彼が信じるとは思わなかったのだが、なぜだかミッチェルは慌ててリプリーを妻にすべく頑張ってくれた。彼のその態度は、リプリーをより幸せにしたのだった。
後になって、二人とも両家からものすごく怒られたものの、リプリーとミッチェルはそのまま結婚して次期ダウニング侯爵夫妻として社交界に披露されたのだった。
今でも自分たちの結婚式の豪華さや華やかさを思うと、その日の自分の気持ちが蘇ってきて、リプリーは笑顔になってしまう。
リプリーがミッチェルを好きなのは、彼が彼女の虚栄心を満たしてくれるからだけではない。幼い頃からミッチェルの妻になる、と思って側にいたのだ。
刷り込みから始まった幼心の戯れのような恋だったが、それでも二人は恋心を大事に育てあげ、かけがえのない恋人同士になった。
そのリプリーにしても、ミッチェルに関してちょっとばかり納得のいかない事がある。
ミッチェルの、ダグラスとアメリア夫婦へのこだわりの件だ。ダグラスはミッチェルの側近として、少年の頃から側にいたのでリプリーも馴染みがある。
いつもにこやかで、温和な背の高い青年だ。事故の時もミッチェルのことを守って、足が不自由になったと聞いている。
アメリアは魔力のないことで、色々と大変な目になってきたらしいけれど、ミッチェルを眠り病から目覚めさせてくれたという恩人だ。
ダグラスとアメリアは、リプリーにとってミッチェルの命をつないでくれたという点で、この上ない恩人なのである。
更に言うなら、病後にちょっと気分屋になってしまったミッチェルの社交上のトラブルを未然に防いだり、領政の忙しく面倒な部分をミッチェルに代わって頑張ってくれているダグラスは、リプリーにとって拝んでもいいくらいには好感度の高い相手である。
ミッチェルは、自分に取って代わろうとしている、とダグラスのこととなると、そこまで嫌わなくても、と思うのだけど。
リプリーから見ると、ダグラスはダウニング侯爵家に尽くす人であって、別にミッチェルに恥をかかせようだとか貶めよう、とかそれこそ自分が侯爵になろうなどと考えてはいないと思えるのだ。
自分で名前をつけたのに、エアルドレッド侯爵家をエルドレッド侯爵家、と「ア」抜きで書いていたことに夕方気が付きました⋯
訂正したつもりですが、まだ残ってるかもしれません。
設定をノートに書いてるんですが、そのノートにすら途中からエルドレッド、とか書いてあって発覚が遅れた模様です。




