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「ダグラス、こちらからの口利きに応えてくれたところはあって?」
シーラとグエンを連れて王宮から自宅に戻ってきた私は、夫であるダグラスに問いかけた。
「まず大々的に呼び掛ける類の話ではないからね、こちらから選んだ数人に話は持ちかけたけど、実際にはあまり話は進んでいない」
「あら、そうなの。どういった所に持っていったの?」
「グエンに関してはまず兄のクィンシーに事情を説明しておいたよ。それで今のところ、農地開発で関わりのある男爵家から是非男爵夫人に、という返答が届いている」
「それって、どんな方なの?」
「農地開発でクィンシーとの関わりがあるスイフト男爵で、確か31、2歳の真面目な男だ。ダヴァナー領の近くに小さい土地を持っていて、あまり豊かではなかったせいで婚期を逃したらしい。こちらの持ち込んだ肥料や農地開発で暮らしぶりも上を向いたらしく、今回の縁談でクィンシーとの縁をもっと繋ぎたいらしい」
「グエンの方はその人と上手く行ったら、助かるわね。クィンシーはなんて言っているの?」
ダグラスの話によると、クィンシー自身は実家に置いてきた弟妹のことは気にかけていたらしく、妹のグエンをダヴァナー伯爵家で面倒を見ることには、恐縮しつつも喜んでいるらしい。今回のスイフト男爵との縁談も、かねてから面識もあり爵位がある上に非常に真面目な男性という、この上ない良縁に喜んでいるらしい。
グエンがどうしても生理的に合わない、ということでもない限りこの縁談は成立することでしょう。
「シーラの方は?」
ダグラスが少し間をおいて、答えた。どう見ても言葉を選んでいる様子に、私も暗い予感がした。
「……血縁を考えるとミッチェル様のところの側仕えはどうかと思ったんだが…… 権力のある人の近くというのは、我彼の差を感じるからやめたほうが良いかと思って……」
ダグラスの話は、つまりはシーラの夫にと名乗り出るものがいない、ということでした。
シーラは準王族の私、ダヴァナー伯爵夫人の近くにいて、態度の悪さを理由に降格されそうだった元近衛騎士です。彼女へのダウニング侯爵家の家臣からの反発は小さいものではないようです。
ダヴァナー夫人への態度の悪さに、おそらく同じような血縁関係であるミッチェル様の夫人であるリプリー様への態度も同じようなものになるのではないか、という懸念があるようです。
加えて社交界でのターラント子爵夫人の評判の悪さ、というのもあり、彼女の結婚は難航しそうです。
シーラの母のターラント子爵夫人の評判が悪いというのは、結局のところシーラも同じなんですが、「血の繋がりがあるのに、なぜこれほど立場が違うの?」という態度が、エアルドレッド侯爵様やジャクスン侯爵家への対応に全面的に見える、ということにあるのでしょう。
ジャクスン侯爵というのは、私やシーラの曽祖父母ニコラ・チェスター王弟殿下とエヴァレット・マイラ様の興されたジャクスン公爵家の流れを継ぐ家です。
ニコラ・チェスター様の代では公爵家となっておりましたが、公爵家は一代限りのため、その後は侯爵家として続いています。
エアルドレッド侯爵様やダウニング侯爵様に付き添った経験のある側仕えたちの中で、社交の場でのターラント夫人を見たことがあるものは、尽くシーラを迎え入れることに反対しているそうです。はぁ、でも受け入れるって言っちゃったし、母親の言動は彼女のせいでもないしねえ……
「お話中に失礼いたします、よろしいでしょうか」と私とダグラスとの会話を傍で聞いていたコナーが、突然声を上げた。
「あら、何か急ぎの話があったかしら?」とコナーに答えると彼は……
つまるところコナーは、最近になってコナーの男爵位授与の話が上がっていること、男爵位を授かったコナーがシーラを娶ることも視野に入れてはどうか、という提案をしたかったようだ。
コナー自身は、元伯爵家の三男で現在は平民ではあるが、私やダグラスの側近というか秘書としてお城について上がることも多い為爵位を持っていたほうが良いだろう、という話になっている。
もしコナーが男爵になってシーラを妻に、というのであれば、落としどころとしては確かにちょうど良いかもしれない。
爵位は低いものの、ダヴァナー伯爵夫妻の信厚い要職についている男性……であれば、イングリッド様からの口利きがあったとしても言い訳がたつ。 血筋と親子関係と素行、問題の多いシーラの夫に彼がなってくれるのなら、それは本当にありがたいことである。
私がダヴァナー領にいる間に、この二組の見合いを済ませるべくコナーにスケジュールを組み入れてもらった。
実際、ダヴァナー領のお仕事だけでも忙しいのに、ダウニング侯爵家からはダネル医師との「鎮痛魔法」と「助産師育成」の研究結果の会合もあり、ましてや「眠り病」の臨床研究に関してなんて……
もうこれは私の手を離れて、ダネル先生とケイリーとで進めてくれて良いんじゃないでしょうか?
ミッチェル様の後遺症問題など、確認したいことはあっても、普段王宮暮らしをしている私には、もう経過観察なんて程遠い距離にいるんですけど……




