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「お誘いは大変光栄ですが、実家とも話し合わないとわたくし一人での判断はいたしかねます」グエンが、おそらくは普段とは全く違う口調で答えた。
「そうね、でも大丈夫よ。二人ともエアルドレッド侯爵家の派閥でしょ?エアルドレッド侯爵様とも連絡は取れているので、その辺りは心配しなくても大丈夫よ。あなた達二人は私の管理下に入るか、騎士隊の中で降格人事を受け入れるか、その二つの選択肢を受け入れるしかないの」
私はここで一旦言葉を切り、二人の顔色を見つめた。別に彼女たちの気持ちを慮るつもりはない。ただ、自分の及ばない力に翻弄される、と思っている二人に同情の気持ちが湧いただけだ。
二人が私の管理下に入るのは、与えられたチャンスを物にできる実力が足りなかったから。若さゆえの全能感に溺れて、自分たちを客観的に見ることが出来なかったから。与えられた地位に見合う努力をしなかったから……
グエンの実家ディクスン子爵家も、シーラの実家ターラント子爵家も、イングリッド様からもたらされた結婚の話に一も二もなく頷いた。
なので、二人には本来なら「この人と結婚するように」と言うだけで済んだのだけど、「王命」だなんて思われても困る。そこまでの価値は二人にはない。ただシーラの血統は無視できない、と言うだけのものだ。
なので、騎士団長からの退団の提案と私アメリア・マイラからの就職の仲介・結婚相手の紹介という、もう少し柔らかいニュアンスを伴ったものにしているのだ。
「私からの提案を飲んだほうが、結婚に至らなくてもダヴァナー領での仕事を紹介できるので、貴方がたには良いと思いますよ」
「それは、どういうことでしょう」今度はシーラが、身分差を頑張って乗り越えて聞いてきた。多分彼女たちも命令されたほうが楽なだろうと思うけど、私としてはある程度納得ずくでそうなった、という方向に持っていきたいのだ。
「実力が足りなくて近衛から門番に、というのがあなた達に屈辱でないなら、団長からの話を飲めばよろしくてよ。でもその場合は見合い相手が気に入らなくても、断れないし、断ったら今度は確実に一生を、出会いも出世もない場所で終えることになるわね」
もちろんそれは分かっているでしょう?という顔で私は、二人に笑いかけた。
伝わったかどうかは分からないけれど、シーラが続けて問いかけてきた。
「アメリア様のお話だと私たちからもお見合いを断る権利はある、という事ですか?」
私は目線を上にやってから、淑女らしく無くため息を吐いた。
「……そうね、ええ、断ることは出来るわ。ただその場合、確実にこちらからの紹介できる仕事の幅が狭くなる、ということは覚悟してほしいわ。わたくしにとっては、あなた方よりも領地の男性の方が優先されるの」
「その大事な方々を、わたくしたちにご紹介いただけるのはどうしてですか?」
あら、聞いちゃうんだ……
「……そうね、グエンに関しては簡単。うちの領地にグエンのお兄様がいて、その方がわたくしにとっては大変有能な方だから」
「兄ですって?」グエンが、驚きにこらえきれず声を上げた。
「ええ、かつてのクィンシー・ライアン・ディクスン。現在は平民だけれど、薬師としてうちの領地で働いてくれているわ」
クィンシーは今のところ平民だけれど、そのうち準男爵位をダニエルが与えるんじゃないかと思う。それくらい他所に引き抜かれると、困る存在になりつつあるのだ。
グエンを良い条件でうちの領地に引き取ることで、彼がダニエルと私に少しでも恩を感じてくれたら良いのだけれど…… 彼が元の家族に対してどんな考えを持っているのか分からないので、今回の申し入れ自体が余計なお世話かもしれないけれど。
「シーラには……わたくしが今言えることは、血縁関係というのは貴方が考える以上に面倒だ、ということかしら」
「それは、わたくしがエアルドレッド侯爵家と血縁だ、ということでしょうか?」
「そのへんは微妙ね。確かにあなたはエアルドレッド侯爵様とは血縁なんだろうけど…… どちらにしても、あなたは色んな意味で監視されるわ。そのせいで近衛に配属となったのだけど、却って悪目立ちしてしまったのね」
「わたくしの実力での配置ではないのですか!」シーラがカッとしたように声を張った。
「実力ならこんなに早く降格の話が出るわけ無いでしょう。地位に見合わない配属に傲るから、こんな事になってるんでしょう」
私の言葉は殺傷力が強すぎたみたい……つい、本音が出てしまって、シーラもグエンも絶句、という顔をしていました。
「そういうことなので、今からあなた達は私の管理下に入ります。寮の片付けと身辺整理に今日と明日あげるわ。明後日からはダヴァナー領に引っ越してもらうわね」
私は部屋の隅にいたコナーに合図を送って、手配を任せた。丸投げできるってホントありがたいわ。
私はコナーがシーラとグエンを連れて部屋を出るのを眺めた後、与えられた権力のありがたさと重さを思って息を吐いた。




