シーラ・メリア 2
母にとっては、従兄妹が侯爵家の嫡男で、自分が騎士爵の娘だというのは、納得できなかったんじゃないだろうか?
同じ王弟の孫なのに、という不満が常にあり続けたのでしょう。
シーラが考える限り、母が子どもの頃から物質的に苦労したことはないと思う。結婚してからも父が母に、特別苦労をさせたことはなかったはずです。
予算的にそれは、ということはあったとしても、子爵夫人としての体裁を整えるに足るものに囲まれていた母は、きっと子爵夫人であること自体が不満だったのでしょう。
母のことはともかくとして、本来の護衛対象であるセレスティン様の事を考えた。お可愛らしい、としか言いようのない姫に仕えることには別段不満はない。
今のところまだ起き上がるなど考えられないセレスティン様との相性よりも、周りを取り囲む乳母たちと上手くやっていけるかどうかを考えて、なんとなく気が重くなったのでした。
翌朝からグエンとともに、正式にセレスティン様の護衛についたのだけれども、なんというか筆頭乳母であるアメリア様の離席の多いこと。
「アメリア様、ダネル医師が面会を……」
「あ、ええ、わかりました……」
「アメリア様、ダヴァナー伯爵がお越しです」
「アメリア様コナー様が」
毎日毎日それも日に何度も、アメリア様への面会はひっきりなし。その度にアメリア様はセレスティン様とハワード様を部屋に残し、面会のための個室へ行かれるのだ。
ハワード様というのはアメリア様のお子さまで、ダヴァナー伯爵との間にお産まれになった第一子だ。ハワード様のセカンドネームに「キャシディ」というエアルドレッド侯爵様のお名前が入っていることから、アメリア様がエアルドレッド侯爵様の「縁者」と言われている。
縁者と婉曲に言われているけれど、いわゆる隠し子とかそういう類だと思われているのは、アメリア様としてはどうお考えなんだろうか?と私とグエンの間では、ちょっとした謎となっている。
「リプリー様の妹君に当たるのかしら?」
「さあ?どっちにしてもあちらのお血筋には違いないんじゃないかしら?だって、あんなにそっくりなんだし」
「似てるっていうだけなら、シーラだって似てると思うわよ」グエンが、私の顎を手で持ち上げて鏡の前に押しやりました。
グエンの手を払って、私は「だって、私もエアルドレッド侯爵さまとは血がつながってるもの」と言った。
「え?それって?」
「うちの母方の祖父が前エアルドレッド侯爵様の弟に当たるのよ」
血縁関係を思い浮かべつつも、今ひとつピンときていないグエンに説明する。
「私の祖父と前エアルドレッド侯爵様が兄弟で、私の母とエアルドレッド侯爵様は従兄妹同士になるのよ」
「え?でもそれって割と近い血縁じゃない?なのに全然お付き合いってないの?だって、私あなたからこんな事聞いたの初めてだよ?」
「なんていうか、あまりにも身分的に差がありすぎて、お付き合いなんて考えただけでも憚られるわよ。私は恐れ多すぎて血縁だなんて口にも出せないけど、うちの母はそれなりにアチラコチラで自慢してるわよ」
自慢気に下位貴族の奥様相手にマウント取ってる母の姿が、目に浮かぶようです。そんなマウント取ったところで、実際には挨拶くらいしかしたことないんじゃないかしら?
そんな高位貴族への血筋を自慢したところで、取り持って下さいとか頼まれたらどうするんだろう?そんな場面を想像しただけで、私は怖くてたまらない。
「アメリア様って、マイラのお名前を頂いてらっしゃるのでしょう?準王族のお名前だもの。やっぱりそれでご領地で静かにお育ちになったのかしら?」
グエンがそう言って首を傾げているけど、私はその答えを持ち合わせていない。
「お付き合いなんてないんだから、私も全然知らないわよ」
「それにしても、ほんとにお客様が多いよね、アメリア様への」
「ほんとよね、お医者様の面会が一番多いのって、お体が弱かったのかもね、だから表に出ていらっしゃらなかったのかもよ」
「うん、それは有り得そう。よくポーションとか薬草の話をしてらっしゃるしね」
「それにしても、お客様との面会ばっかりでセレスティン様の乳母のお仕事、してらっしゃるところはあんまり見ないよね?」自室にいながらもグエンが声を潜めて言います。
「そうねえ」私も小さな声で返します。
流石に職場で見たことを、周りに吹聴するのは差し障りがあるので。
実際にアメリア様が乳母のお仕事をされているところを、私達は見たことがない。どちらかと言うと、ハワード様のお世話を、セレスティン様の乳母たちがしている。
こういった優遇措置というのが、準王族への配慮というやつなんだろうか?と自分の奥底から、見たくないものが蠢いてせり上がっていくような気がした。
護衛騎士の仕事とはいえ、「持っている人たちの暮らし」を日々眺めるのは、なかなかに辛いことだ、ということに私は今更ながらに気がついたのでした。




