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「その辺はおいおいわかってくるでしょう」という私にメアリーが、相手の出方を待つということ?と問うので、「私だけの判断でどうこうする訳にもいかないでしょう?彼女が護衛となったのも王家のご意向というものなんだし」と答えたのでした。
セレスティン様の護衛なんて、ホント初心者向けも良いところよね?ご本人はまだご自分で移動することすら出来ないんだもの。
それよりも私にはもっと聞きたいことがありました。
「ねえ、メアリー、あなたイングリッド様のご懐妊中にもマッサージのご用命を受けたの?」
突然の話題の変更に、メアリーは慌てつつも、ええお腰やおみ足などご依頼を受けたわ、との返事。
イングリッド様のご懐妊中は、私はハワードの妊娠出産と産後のお休みを頂いていたので、私自身がイングリッド様をマッサージしたことはありません。
「ねえ、メアリーその時にイングリッド様の魔力とセレスティン様の魔力の違いって分かった?」
「そうねえ、ええ、確かにイングリッド様の魔力とは違う魔力を手に感じたわ。お腹のお子さまが元気にお過ごしなのが分かって、とても感動したものよ」
っよっし!メアリーが分かるっていうことは、大方の低魔力者が感じ取れるってことよね。
「それがどうしたの?」と問うメアリーに、説明する。
「まだダネル先生に確認しないといけないけど、魔力腺を感じ取れるマッサージ師になら、産科医の代わりを務められると、思わない?」
「私には無理だけど、メアリー達みたいに魔力があるなら、痛みを抑える魔法が使えないかしら」
「まぁ!アメリア……そんなことが……出来たら」
魔力量の問題で、出来ないのならそれはそれで構わないんだけど、お産の補助も出来ると、私たちの価値も上がるってもんよね?そういう私にメアリーが、目を潤ませながら、言った。
「私たち、今でも後妻に入る以上に価値が高いのよ、知ってた?」眼尻に溜まったものを、溢れる前に指で押さえつつメアリーは、笑った。
産科医は必要不可欠な仕事なんだけれど、求められる技術が繊細で身につけることが難しいため、なり手が少ない、というか目指してもなれる人は少ない、らしい。
その「繊細な技術」というのが、産婦と胎児の各々の魔力を感知する、ことなのだそうです。
でも私たちマッサージ師であれば、妊産婦と胎児の両方の魔力を感じ取れる。
メアリーのように低魔力のマッサージ師が、無痛分娩の魔法を使えるようになったら、もうそれはこの世界の「産科医」そのものじゃない?
胎児の魔力を感じ取れるって、それはもう産科で使うのモニター代わりが出来るってことよね?
さっきメアリーが「セレスティン様のお元気な様子が分かって」って言ってたから、出来るんだろうけど。
本当に胎児の様子が分かるんなら、絶対に役に立つはず。
この考えを現実のお産に役立つかどうかを落とし込んでいくのは、ダネル医師に丸投げになってしまうんだけど。
出来る限りは手伝うけれど、今の第一はハワードだし、ダグラスだし、セレスティン様なので。
だた、これからもっとハワードとセレスティン様の方に手を取られるだろうから、今のうちにやれることはやっておきましょう、ということでダネル医師を王宮に呼ぶことになりました。
こちらからお伺いしたいところなんですが、今の立場としてはなかなかに難しいものがあって……
権力は欲しかったんだけど、それが自分に見合ってないような気がして、使い方に困るわ。
準王族で、王家の姫様の乳母、そう簡単にあちこちに出かけていけない身である、というのは理解できるし、そんな立ち位置の人に家に来られても対応に困るだろうな、というのは自分が迎える側なら絶対にそう感じるだろうと思う。
でもねえ、育ちが育ちなのでなかなか気持ちが追いつかなくって、困るわ。
それとは別に今困ってるのが、新人護衛の扱いなのよね。
私はセレスティン様の筆頭乳母なので、本来はセレスティン様のおそばに付くのがお仕事なんだけど、急遽ダネル医師との会合を持ったり、ダニエルとダウニング侯爵家の薬草関連のお仕事が入ったりと、セレスティン様とは別行動になることが多いのよね。
セレスティン様のおそばを離れるたびに、彼女たちの目がねぇ……
なんというか「お前乳母のくせにサボんなよ」っていう風な視線を感じるのよね。
たしかに私は乳母なので、本来の乳母のお仕事をするのが筋なんでしょうけど、その前に私がマイラという準王族である、ということへの敬意というのが、全く見られないのよ。
ダウニング侯爵家寄りのお仕事に関しては、その内容が部外秘なので、彼女たち護衛の目に入らないところでしていることもあり、度々席を外す私は権力に物を言わせてサボる女に見えるんでしょう。




