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「これをイングリッド様から預かってるわ」と言ってメアリーが、封筒を私に渡してきました。
受け取って、中の手紙を読む。メアリーが私の顔色をうかがうように、のぞき込んできます。
「謝罪だったわ」手紙をたたんで封筒に戻しながら、メアリーに伝えた。
「実妹をそばに置くことになって申し訳ないけれど、血統の関係で近衛におくことは決定していて、新人なのでどうしてもセレスティン様のそばにしか配置できなかったことを申し訳なく思ってるって言ってくださってるの」
「アメリアはどう思ってるの?」
「どうって……なんというか、妹だとは知っているけど、一緒に暮らしたこともないし、顔自体もはっきり正面から見たのはさっきが初めてだし……」
「目の前で、私と妹に差をつけて育てられたなら、もっと思う事はあるんだろうけど、なんというか会ったこともない遠縁の人に会った、という感じかしら?」
そうなのです。産まれた時から両親とも一緒に暮らしたこともなく、私は本宅ではなく離れに乳母代わりの下働きの下女と暮らしていました。
前世の記憶がある私には、両親のことも近所に住んでるお金持ちの人、という印象しかない上に、まして妹なんてそこのお家に子どもが産まれたんだなあ、位にしか思えなかったのです。
小さい頃、母と妹が二人で散歩をしているのを見て、自分にはお母さんがいないんだろうか?という意味で羨ましく寂しく感じはしたものの、限りなく他人にしか思えません。
全くの関係のない人たちなので、私の今の立場を見て急に近寄ってきてほしくないけれど、だからといってあの家を引きずり下ろそうとも思わない。
全くの無関心にはなりきれないけれど、積極的に嫌がらせをするほどの気持ちもないのです。
でももし、私やダニエル、ハワードにすり寄ってこようものなら、二度と近寄らないという気持ちになるほどに叩きのめす!というくらいには、嫌いです。
妹は護衛なので、こちらから話しかけなければ口を開くこともありません。個人的に関わり合うことは無いでしょう。
「護衛騎士なんでしょう?きっと話す機会もないだろうし、彼女は私のことを知ってるのかしら?」
あの家で、居ないものというかアンタッチャブルな存在の私は、おそらく話題に上がることもなかったでしょうから、妹が私のことを知っているかどうかすら、わかりません。
「アメリア……」メアリーは、そこまで?と言うように顔色を失っています。
「変に関わって虐待とかされるよりは、ずっと良かった、と思ってる。もし、私のことを知っていて近づいてくるなら……どうしようかな」
私個人がどう考えたところで、王家の意向に沿わねばなりません。私が叩きのめしてやる!と考えたにしても、イングリッド様を通じての権力頼みになってしまうでしょうから、私の考えなど大した意味はありません。
「彼女が私のことを姉だと知っているか、あの家の人達が私をアメリア・ターラントだと知っているかどうか、これがまず確認しなくてはならないことよね」
メアリーが私の言葉に頷きます。というのも、学園卒業後サンダース家に養女に入り、生活がそれも主に食事面が変化したことで、私の外見がすっかり変化してしまったのです。
栄養失調気味だったほっそり、というかはっきりと言えばガリガリに痩せ細っていたのが、程よくふっくらと肉付きが良くなり、髪や指先までも栄養が行き届いているので、見るからに健康そうです。
実家にいた頃は枝毛の多い茶色の髪だったのが、侍女たちに手入れされ、くしけずられ艶々としたストロベリーブロンドに。
常にガサガサと荒れて日焼けしていた指先や肌も、伯爵令嬢らしく白くたおやかになり、一緒に学園にいたはずのメアリーやケイリーたちでさえ、あのアメリアと同一人物には見えない、と言われるほどになってしまいました。
おそらくかつての同級生たちも、私がアメリア・ターラントであると認識出来ないはずです。
私のデビュタントの段階ですら、何らかの理由で学園に通っていなかったリプリー・エアルドレッド様の親戚と見做されていたのですから。
実際にリプリー様とは血縁的にも又従姉妹同士にあたるのですから、周囲の認識もまるっきりの嘘でもないんですけどね。
ハワードが産まれた時に、エアルドレッド侯爵様がご自分のお名前をハワードのセカンドネームにと主張されたのもあって、私アメリア・マイラ・ダヴァナー伯爵夫人は、エアルドレッド侯爵家の寄り子の生まれまたはエアルドレッド侯爵様の隠し子と思われているようです。
私やエアルドレッド侯爵様に、面と向かってそれを問いただしてきた勇者には今のところお目にかかってはいませんけどね。
結局のところ、私は「マイラ」の名前に助けられているのです。マイラとマルセル、このセカンドネームは準王族に付けられると決まっているので、貴族家に生まれるものには、ファーストネームにも使うことはありません。
王家に許されて初めて、名乗るのを許される名前なのです。




