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不遇の姉は、未来を拓く  作者: きむらきむこ
閑話

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 閑話 愛がなかったわけじゃない ケイリー 2

 誤字報告、ありがとうございます。そして、これからもよろしくお願いします。

「仕事?」

アメリアは、ケイリーたちにダウニング侯爵家からの仕事の依頼の話を、持ってきてくれたのだった。


 アメリアは、寮で同室の同級生のメアリー・ダイソンからの縁で、ダウニング侯爵家への伝をつないだらしい。


 メアリーもケイリーたちと同じく魔力が少ないのだが、女性なので政略結婚要員として大切に育てられ、卒業後は寄り親のダウニング侯爵令嬢の侍女として仕えることになるらしい。


 そのメアリーの紹介で、アメリアはダウニング家でマッサージ師として働くことになっているらしい。それを男性向けにも展開するために、男手が必要なのだそうだ。


「だからって、本当に俺達も正式に雇ってもらえるのか?」コナーがアメリアに食って掛かっている。


「今のところ正式には確定とは言えないわ。だってダウニング侯爵家が選ぶ側なんだもん。ただ、私に言えるのは、これを覚えたら少なくとも卒業後も働く場所は出来るはずだってことよ」


「それに、今回の仕事に関して言えば、低魔力者だから出来ること、だってあるのよ」


「働く場所ができるって?それだけだって十分だよ」ケイリーは、弟が生まれてから初めて自分たち低魔力者の居場所が出来るかも知れない、という希望に興奮した。


 クィンシー、コナーにケイリー、僕たちは名前が違っても扱われ方には大差がない。ケイリーはたまたま両親に愛されて育ちはしたものの、それも魔力の多い弟が産まれるまでの代替品だった。


 そうは思いたくなかったが、弟の誕生後の自分への扱いを見るに、ケイリーは両親の愛情を信じられないでいた。


 学園で出会って、助け合ってきた仲間とこのまま働く場所ができる……そこまでは求めないまでも、少しの期間であっても働ける場所があるというのは、彼らにとってありがたい事だった。


 「アメリア……こんな事しても良いの?」ほとんど裸に剥かれたコナーが、簡易寝台の上で情けなく声を出した。


 見ているケイリーも、次は自分があそこに寝ることになるんだろう、と思いつつ、アメリアの手元に注目した。


 簡易寝台の周りにはアメリアとクィンシーに自分の他、ダウニング侯爵家の侍従が数人取り囲んでいた。


「あなたたちがこれを覚えてくれないと、いつまでもわたくしが講師をしないといけないのよ。だから早く何とかしてね」アメリアはコナーの身体の要所要所、アメリアの言うところの魔力腺のある所に大きくペンで印を入れた。


 ケイリーが見ていると、コナーは自分の姿にいたたまれない様子ではあったが、アメリアの手で解されていくにつれて、少しずつ全身から力が抜けていってるように見えた。


 

 ケイリーはこっそりと、アメリアの指先の動きを真似て左手に自分の右手の指を這わせてみたが、ぎこちない動きしか出来なかった。


 アメリアが目をコナーから動かさないまま、ケイリーに向かって話しかけてきた。


「大丈夫よ、ケイリー。指の動かし方もちゃんと出来るようになるまで教えるから」


「ああ…よろしく頼むよ」


「この後はケイリーに、コナーがマッサージするからね」アメリアが笑いを含んだ声で、続けた。


 驚きと不安が顔に出たらしく、アメリアはきちんと指導するから大丈夫よ、と言って今度ははっきりと笑い声をあげたのだった。


 ケイリーたち三人は、侯爵家に就職できるとなる今回の話を、なんとしてもモノにしたかった。


 アメリアが行うマッサージは確かに心地良く、これからは必須の技術となるだろうことは確実だった。卒業までの毎日を、彼らは必死に技術の習得に励んだ。


 そして迎えた卒業の日。ケイリーたちはダウニング侯爵家で一つの前提条件の元、マッサージ師として雇用されることが決まった。


 とはいえ、その前提というのも本来学園入学前から決まっていたことであるので、彼らにとっては然程気にはならなかった。



 「ケイリー、コナー、クィンシー、アメリア」

学園の一部屋でケイリーたちは、貴族籍の担当者と向き合っていた。


 本来なら貴族省にこちらから出向いて手続きするべきところなのだが、さすがはダウニング侯爵家。権力ってすごい、ケイリーの頭の中はその言葉で一杯だった。


 彼ら三人とアメリアは、この日をもって貴族の一員から家を離れて平民となる。


 王国の役人とダウニング侯爵家の多分何かの責任者となる人が学園に出向いて、学園の事務仕事の担当者を交え、平民落ちするケイリーたちの手続きを行うのである。


 ケイリーはなんだか居た堪れない心持ちで、ソワソワしていた。おそらくはこの後ダウニング侯爵家ゆかりの家に縁付くことになるアメリアを慮ってのことで、自分たちはそのついでであることは理解できた。


 ケイリーの落ち着かない気持ちが見て取れたのか、学園の事務員が声をかけてきた。

「こういった作業は常に貴族籍と学園の担当者とが、間違いないかを確認しながらするもんなんだよ」


 その声にコナーやクィンシーも、「へぇ」と言った顔をした。


「貴族籍を抜けるということが、本当に間違いなく当人なのか、という証人も必要になるので教師だとか学生証何かの提出も必要になるんだ」


 確かに間違って違う人間が、貴族籍から抜けてしまっては大事になるだろう。

 

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