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不遇の姉は、未来を拓く  作者: きむらきむこ
閑話

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 閑話 ダネル医師

 そうですねぇ、いかにも「儚い」という感じの女性(ひと)でしたよ。


 私が子どもの頃に、家の離れに滞在されていた方でね。私もまだ子どもでしたから、詳しい事情なんて知りませんでしたが、少し年上のきれいな人でしたからまぁ、なんというか、憧れのお姉さん、というのでしょうかね。


 癖のある長い金髪に白い肌、綺麗な青い目の女性(ひと)でねえ。離れの藤棚の下で寛いでいる姿を、こっそり眺めていたものですよ。


 え?声ですか?私もまだまだシャイな年頃でしたからね。話しかけるなんて、恐れ多くて出来ませんでしたよ。


 ただ一度だけ、花をですね、藤棚の下に彼女がよく座っていたテーブルに置いてみたんですよ。


 誰にも見られていないか、キョロキョロ見回してから、自分ではものすごくこっそりと置いたつもりだったんですけどねぇ。


 彼女がいつものようにお茶を飲みながら庭を眺めているのを、覗き見してたんですよ。「あの花は気に入ってくれただろうか」なんて、ちょっとばかり良い気になってましてね。


 私にも、そんな可愛い時代があったんですよ。


 私の家は、祖父の代から医師をしておりましてね。その関係で離れには時折治療の必要な方が滞在されてた、ということを知ったのは彼の人(かのひと)が眠りにつかれた後でしたね。


 いつもの藤棚の下で寛がれていたあの方を、いつものように庭の薬草の手入れをしながら見ていたんですよ。


 立ち上がろうとした彼女は、テーブルに手をついてそのまま膝をつかれまして……


 慌てて駆け寄った私を見て、薄く微笑まれたんですよ。そして一言「お花……」と言って、そのまま気を失われました。


 彼女から直接声をかけられたのは、このときが最初で最後でしたよ。そのまま眠りにつかれたのでね。


 フルール・イングリッドというお名前を知ったのも、彼の方が現ダウニング侯爵の妹御だと知ったのも、後になってからでしたよ。


  私は、医師家系の落ちこぼれの三男でしてね。あまり魔力も多くないものだから、薬草の管理人にでもなって生計をたてるかなあ、と思ってまして……


  兄たちは勉強で忙しくしてましたし、フルール様の滞在は知っていましたが、お目にかかったところでフルール様がお疲れになるだろうから、と最後までお会いすることもありませんでした。


 言ってみれば、ご静養のためにうちに来られたわけですから取り立てて客が来ることも無かったわけですよ。


 フルール様付きの侍女が後から教えてくれましてねえ……

 

 藤棚の下で寛ぎながら、フルールさまも暇を持て余しておられたようで、私が薬草や花の世話をしているのをご覧になっていたそうなんですよ。


 ですので、私が置いた花のこともすぐにお気づきだったようでねえ、なんとも言えない気持ちになりましたよ。


 声を掛ける勇気さえあれば……お好きな花くらい聞けたかも知れないなあ、なんて。


 時折、薬草やハーブをまぜて作った私のハーブティーなんかも飲んでおられたようなんですよ。


 元々は母のために作ったんですがね、これなら薬草の苦みが消えて飲みやすいからと、母から父に話が通じまして、それでフルール様にもおすすめしたらしくて……


 侍女の話によると、治癒を受けたときよりもハーブティーを飲んで過ごしていた時の方がフルールさまも安らかにお過ごしだったとのことで……


 まあ、治癒を受けるような状況ですから、もちろんフルール様の体調が悪かったのがあるんでしょうが、私のお茶を飲むようになってから、寝込むことも少なくなられたという話も聞かせてもらいましてね……


 あの方がお亡くなりになってからも、薬草の手入れをしてハーブの配合なんかも勉強しましてね。


 それが高じていつの間にやら、眠り病の研究にまで手を出して……


 気恥ずかしいものですね。医師になった理由なんて、本当にささいな偶然の重なった結果なんですよ。


 ダネル医師は目を細めて笑いながら、私に向かって教えてくださいました。


 


 ええ、アメリア、そうですねえ。

これでも君の年齢以上に薬草とハーブの研究を重ねてますからね、ハーブの配合なんかはちょっとしたものですよ。


 ポーションには手を出せない層にも薬草をというなら、私はこれを勧めますよ。


 ほら、飲みやすいでしょ?君が平民に飲ませようとしている「煎じた薬草」よりは、受け入れられると思いますよ。


 そう言って、笑いながらティーカップを傾けたダネル医師は、自身のブレンドしたハーブティーを振る舞ってくれました。


 将来、領民に薬草を煎じたものを健康のために飲ませるようにしたい、という私の願望を話したところ、あれはポーションにしないと飲めたもんじゃないでしょう?というダネル医師の返答から、これらの数種のハーブティーのブレンドをご馳走になるお茶会へと話が転じたのでした。


 

  そして、ダネル医師が医師になったきっかけを問うたところ、少しばかりはにかんだ医師が語ってくださったのでした。


 「もう古い話ですが、フルール様という女性(ひと)が確かに存在したということを、私やダウニング侯爵様以降の若い人たちにも覚えていてほしいんですよ」ハーブティーを一口含んでから、ダネル医師はそう口にされたのでした。


 

 次の章までは、まだしばらくかかりそうです。

ダウニング侯爵家の主治医、ユルゲン・サイ・ダネルの淡い初恋の話でした。

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― 新着の感想 ―
 なんと美しくも儚い初恋だったことでしょうか。私、こういうロマンティックな初恋のお話に弱いのです。  その名の通り花のようなフルールの美しさとその短命さは、書庫裏めの心にも残ることでしょう。 これから…
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