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どうも、アメリア・サンダース改めアメリア・マイラ・サンダースです。
この度婚約者ができました。そうなるだろう、と思っていたミッチェル様ではなく、ダグラス・モーティマー・タヴァナー伯爵がその婚約者です。
ダウニング侯爵様のご意向により、私とダグラス卿の夫婦は、今後実質的なダウニング侯爵夫妻としてダウニング領を取りまとめることになったそうです。
ちなみに表向きの侯爵夫妻は、ミッチェル様とリプリー様ご夫婦です。ミッチェル様はともかくとして、リプリー様はお飾りの侯爵夫人と言われたところで、然程ダメージもなさそうです。
きっと、着飾って社交界に出ていくことを喜んでくださるような気がします。その分私がフォローすることになるんでしょうか?考えただけで気が遠くなりそうなんですが……
「ここからの話し合いにはミッチェルとリプリー嬢は席を外すように。二人でこれからの話しでもすると良い。結婚式の話などどうだ?」ダウニング侯爵様がミッチェル様とリプリー様に話しかけられました。
リプリー様は嬉しそうに結婚式をさせていただけるのですか?などと声を上げておられました。
お飾りとはいえ、対外的には次期ダウニング侯爵の結婚式ですから、盛大に行われることは間違いないでしょう。エルドレッド侯爵夫人も見張りを兼ねて、リプリー様に付き添うべく、座を外されました。
ダウニング侯爵様が合図をされたのもあって、ここに残っているのは、ダウニング侯爵夫妻にイングリッド様、イングリッド様の侍女のメアリー、ダグラス卿と私アメリアに、ダウニング侯爵様の筆頭侍従とエルドレッド侯爵様にそのおつきの侍従のみ。
親族のみと言って良いでしょう。侍女や侍従すら遠ざけられています。
「さて、ここからは領主のみが知る話となる。この場は防音の魔法で守られている」そういってダウニング侯爵様は、強い目で私たちを見られました。
ダグラス卿と私は次期ダウニング侯爵、イングリッド様とメアリーは王家とダウニング家を繋ぐ糸として、エルドレッド侯爵様はご自身がご領主さまです。
私もメアリーも、領主のみが知るようなことを聞かされる立場になるとは、学園時代には思いもしませんでした。こんな場所にいて良いものでしょうか?
「エヴァレット・マイラ様についての話だ」
エヴァレット・マイラ様はダウニング侯爵様のお祖父様の一番上の姉なのだそうです。そのエヴァレット様のセカンドネームというのが、問題なのだそうです。
これは、ダウニング家だけに限ったことではなく、この国ファリアーノ王国の高位貴族の話なのですが、もし万が一魔力無しの子どもが生まれたら、その子にはマイラ若しくはマルセルと名付け、一代公爵家に縁付ける事となっているのだそうです。
「……どういうことなのですか?」私は震える声でダウニング侯爵様に問いかけました。
「何世代かに一人位産まれてくるのだよ、全く魔力のない子がね……そして、その子どもは何やら不思議な記憶を持っている。だいたいは小さい頃にその記憶を元にした知識を教えてくれるんだよ」
「……一体何をおっしゃっているんですか!」
「君の祖父である私の叔父上は、君の母親が魔力を持って生まれたことで、もう無魔力の子は産まれないと判断されたようだ。その為高位貴族に必要なこのマイラあるいはマルセルというセカンドネームの知識が君の母親に伝わらなかった」
二世代に渡り無魔力の子が産まれない場合は、その家には無魔力の子は続かないのだそうです。祖父と母の世代を超えて無魔力の子が産まれたのは、私の例が初めてなんだとか……
実際にエヴァレット・マイラ様の前の世代は、記録によるとハームズワース侯爵家にお産まれになったのだそうです。今からほぼ120年程前のことです。
ハームズワース侯爵家は、私のあやふやな記憶によると、上下水道の設備管理を主体になってこの国に広められた功績のある家だったように思います。