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「ダグラスをミッチェルの下につける。だがミッチェル、ダグラスは実質的な次期ダウニング侯爵と心得よ」
ダグラス卿はダウニング侯爵の後ろから、一歩前に出て優雅に一礼した。ええ!ダグラス卿もダウニング侯爵家の傍系だから血筋の点から言えば、ありと言えばありなんだろうけど……
明らかにミッチェル様のご不満な様子が見て取れるのだけど、既に「お飾りの侯爵」となることをご自分でお認めになったんだもの、逆らうわけにもいかないよね~。
「ダグラスは表向きダウニング侯爵家の筆頭侍従としてミッチェルを支えてもらう。王宮への出入りもしてもらわねばならんからな。これからはダグラス・モーティマー・タヴァナー伯爵としてタヴァナー家を興してもらう」
ええ〜モーティマーって、ダウニング侯爵のファーストネームじゃない。ダグラス卿への期待のかけ方が凄すぎない?まぁ、ミッチェル様のクーデターを裏から操作して潰した立役者だもんね、侯爵家に対しての忠誠心も厚い人だし……
それにしてもダグラス卿って、フルネームはダグラス・モーガン・サンフォード子爵令息だったわけなんだけど、セカンドネームも変更になるのか……
セカンドネームで親族の繋がりが見えるので、規則性がわかってくると面白かったりするんだけどな〜。
例えば侯爵夫人はシーラ・メイヴィスというお名前なんだけど、実は私の養母であるクローディア様もフルネームだとクローディア・メイヴィスとおっしゃるのよね。
シーラ様とお養母様が実はいとこ同士だったというのが、メイヴィス・リリア様という共通のお祖母様由来のセカンドネームで分かるのよね。
家系図というか貴族年鑑とか読んでるうちに、そういう母系の繋がりが見えてきて面白かったんだけど、こういう改名も含まれてくると急に複雑になってしまうわねぇ。
ドンドンと展開していく状況の中で、一人自分の考えに没入していたところ、私は急に名前を呼ばれて飛び上がりました。
「アメリアはダグラスと婚約して一年後には結婚するように。君にもこれからはアメリア・マイラと名乗るように。君の高祖母にあたるエヴァレット・マイラ様から頂いた。王家から名乗りを許してもらうのに時間がかかったので、遅くなり申し訳なかったな」と、悪戯めいた笑顔で侯爵様が言われました。
「なっ……かしこまりました」私は王家からの許可という件を聞いて、あまりのインパクトに驚きを隠せませんでした。
「エヴァレット・マイラ様のひ孫にあたるのかい?だったら私とも親戚ということになるな」とエルドレッド侯爵様がおっしゃいました。
キャシディ・チェスター・エルドレッド侯爵様は私の祖父の兄に当たる方がエルドレッド侯爵家へ婿入されて生まれた方なのです。
簡単に言うと、エルドレッド侯爵様は私の母といとこ同士ということになります。ついでに言うならリプリー様は私の又従姉妹ですね。
髪と瞳の色が良く似ているのも納得ですね。私とミッチェル様の婚約者ファッションをそのまま使って舞踏会に出ようとしていたのも、元々私とリプリー様がよく似ていたからなんですね。
私が簀巻きになっている間に、ミッチェル様とリプリー様が私たちに合わせて作った衣装を身に着けていたって聞いた時に、そんなのを着ても私の目と色合いが違えば、意味がないのにって思ってたんですよね。
どうやら、私とリプリー様は(ついでに言うならエルドレッド侯爵様も)お互いに父方からエヴァレット・マイラ様という一代公爵夫人によく似た風貌を引き継いでいるらしいです。
「エヴァレット・マイラ様も我が家のご出身なのだから、その末であるアメリアと我が家の縁戚であるダグラスがミッチェルの下について、ダウニング家を盛り立てることに何の不思議もないだろう」
あ~ハイハイ、もう聞かされることがいちいちご尤もで、しかも初めて聞く話ばっかりなんで、こっちとしては「はぁそうなんですか」としか言いようがないですね。