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簀巻き状態で眠ったとはいえ、やはり熟睡してはいなかったようです。私は図太いと思っていたものの、昨日の体験は前世の記憶があるものの、小娘には過ぎるものでした。
救出された安心感と恐怖でこわばっていた身体が解れたことで、それはもうぐっすりと寝すぎでは?というくらいに眠りを満喫いたしました。
身支度を整えて遅めの朝食を摂った頃に、侯爵様からのお呼びがかかりました。
自室で再度の身繕いの上、指定の部屋を訪れると既に侯爵ご夫妻にダグラス卿がいらっしゃました。
私のすぐ後にお義姉様とメアリーを連れたイングリッド様が来られました。
すかさず侍女が香り高いお茶に、軽めのお菓子を添えて出してくれます。
ダグラス卿とお義姉様にメアリーは、侍女もしくは侍従として今回の話し合いに参加しているので、それぞれの主の後ろに控えています。もちろんお茶は出ない…… 美味しいのに。
でもなんでダグラス卿が侯爵様に控えているんだろう?ミッチェル様にお付きの侍従だったんじゃないの?
私の視線に気がついた侯爵様が、少しばかり笑いを含ませた声で教えて下さった。
「ダグラスは将来のダウニング侯爵付きの侍従だからな。今現在はミッチェル付きではない、ということだよ」
私は手にした閉じたままの扇で、口元を抑えた。ついうっかり声出ちゃうとこだったよ。今の私は侯爵様の招待客なんだから、優雅に伯爵令嬢の体裁を整えないとね。
侯爵様の合図で、ミッチェル様とエアルドレッド侯爵令嬢、ご令嬢のご両親である、エアルドレッド侯爵夫妻が入って来られました。
ダウニング侯爵夫妻とエアルドレッド侯爵夫妻が向き合う形で、イングリッド様と私がダウニング侯爵夫妻の下座に付き、ミッチェル様と……めんどくさいのでリプリー様(と心の中では呼んでしまいますね)は、部屋の中で一番の下座に座られています。
その座る位置にもミッチェル様はご不満なようで、私を見て歯を食いしばり、ダグラス卿の姿をお父上の後ろに見つけては、眉間のシワを深くしておられます。
「さて、ミッチェルなぜこのようなことを?」ダウニング侯爵様がミッチェル様に尋ねられました。
「なぜ?なぜと問われるのですか?私は散々アメリアとは結婚したくない、リプリーを妻に、と申しました」
「エアルドレッドのご令嬢とは既に一度縁が切れたのだ。我が家ではアメリアを迎え入れたいと説明しただろう?」
「ええ、何度も聞きましたが、私も何度も言います。私はリプリーを妻にしたい。このままではアメリアと結婚させられてしまうと思ったので、こうしたまででございます」
「現ダウニング侯爵の意向は無視するということか…… リプリー嬢も新しい縁談がと、息子に言っていたそうだが?」
「縁談?そんなものはありませんよ」突然エアルドレッド侯爵が声を出されました。
「え?リプリーからは第一王子殿下の第二夫人に乞われていると……」ミッチェル様が驚いて横に座るリプリー様を見ると、リプリー様は身の置きどころがないようなご様子で顔を赤くされていました。
「リプリー、一体お前はミッチェル殿に何を言ったのだ!こちらは下手に理想の高いお前の嫁ぎ先を探すのに苦労していたというのに」
いや、エアルドレッド侯爵様、そこまでぶっちゃけ無くても……
って、言うことは正式にダウニング家から申し込んだら再婚約は成立したってことですか?私の考えていることが分かったのか、イングリッド様も私の目を見て頷いておられます。
うん、もう少し淑女教育のブラッシュアップが必要かもしれません。考えが顔に出るなんてまだまだですわね。
「ミッチェル、お前は私を納得させればよかったのだ。リプリー嬢を妻にするメリットをな。それにしてもレディーの言うことを鵜呑みにして、真実の裏取りすらしていないとは…… やはりお前は甘すぎる」
「……」ミッチェル様は奥歯も割れそうなほど歯を食いしばり、癇癪を起こす一歩手前のようなご様子です。