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アメリアは、遠くから聞こえる音で目が覚めた。こんな状況で眠っていた自分の図太さに、少し笑ってしまった。
ただ、言い訳をさせてもらえるなら、流石に私も社交界デビューを控えた昨晩はなかなか眠れなかったのだ。
そこに(簀巻き状態なので)微妙な暖かさと暗さの中に閉じ込められたんだから、ちょっと眠っちゃうくらいは仕方ないと思わない?
邸内に閉じ込められたままなんだから、きっとこれは死んじゃうような羽目には間違ってもならないだろうし。
それでも分厚い絨毯を敷いた邸内の重厚なドア越しの物音で起きたんだから、私もそれなりに緊張してるってことだと思うのよ。
それにしても、この状態になってから一体どのくらい時間が経ったのかしら?寝ちゃってたんで、よく分からないんだけだ、生理的にそろそろヤバイ……
こちらに向かってやって来る数人の足音が助けであって欲しいと、切実に思うわ。
淑女にあるまじき勢いで開いたドアの向こうからは、数人が駆け込んで来たような足音が聞こえた。
「アメリア、無事なの?」心配そうなメアリーの声に、アメリアは詰めていた息をほっと吐いた。
「無事、無事なんだけとちょっと危ない、だから早くこれをほどいて」アメリアはできるだけ大きな声を出して、主張した。
「ちょ、ちょっと待ってね」とのメアリーの声に続き、私を包む布地を触る感触がしたと思ったら、
ぐるぐるっと勢い良く布が開かれ、私も転がり出た。
「アメリア!」メアリーが声と同時に私に駆け寄り、助け起こしてくれた。どちらが上かわからない状態だったので、助け起こしてもらえたことに感謝したかったのだけれど……
そのまま立ち上がりメアリーの声を背にして、私は部屋の端にある化粧室を目指して倒れない程度に走った。
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「助かりましたわ」私はドアを開けて、部屋に入ってきた人たちに心から告げました。
私に向き合って立っているのは、ダウニング侯爵夫妻にイングリッド様とメアリーにミッチェル様の侍従のダグラス様でした。
「それで、舞踏会はどうでしたの?」私はその一団に尋ねました。
「ミッチェルはまだ体調が整わないので、急遽欠席と言うことになったよ」ダウニング侯爵が、なのでパートナーのアメリアも欠席ということで対応しておいたよ、とおっしゃいました。
「それで今ご本人は?」
「王宮の控室で、揃いの衣装を着てリプリー嬢をエスコートして出ていこうとしているところを捕まえた。舞踏会に顔を出さないように、見張ってたんだよ。今は二人まとめて部屋に押し込んである」
「……」
そんな早くに二人を拘束していたんなら、乙女のピンチが訪れる前に……っていうか、もっと早く助けに来てくれても良かったんじゃない?
「舞踏会は無事に終わりましたの?」
「概ね無事に、と言ったところかしら」イングリッド様がにこやかにおっしゃいます。イングリッド様は、お兄様が心配で……という体で侯爵夫妻とご自宅に戻って来られたそうです。
この会話が進む間も、メアリーが私の崩れた衣装や髪型を整えてくれています。うん、侍女として頑張ってるのねメアリー。お義姉さまの熱血指導が目に見えるようだわ。
軽く体裁を整えてもらいはしたものの、やはり侯爵夫妻もこの後の対応があるということで、私を含めた全員での話し合いは明日となりました。
舞踏会が終わっての帰宅ですものね、すでに日付は変わっています。私もあの状態でほぼ半日近く過ごしたのですから、体がこわばっておりますし軽くなにか飲みたい。
もっと正直に言うなら、助け出された安堵感からか急に空腹感も覚えてしまったので、何か食べたい。
舞踏会に出ていた方々も普段のパーティー以上に気を張っておられたのですから、お疲れの様子です。確かに私たちは、何かを判断する前に休息を取ったほうが良い状態なのでしょう。