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不遇の姉は、未来を拓く  作者: きむらきむこ
貴族編
16/29

 7

 メアリーから社交界デビューの話を聞いたその晩、義父のサンダース伯爵から改めてデビューの話をされました。


 やはりメアリーの言う通り、結婚を見据えた未来のために必要なのだそうですが……


 そうです、「しかし」が付くのです。


 私の結婚相手は同じ派閥、出来ればダウニング侯爵家の身内の中から選ばれるだろうとのことでした。


 だったらそのまま相手を連れてきて、この人と結婚しなさいと言ってくれたら済むんじゃないかと思うのですが、社交界に顔と名前を出さないことには貴族令嬢として成立しないのだそうです。


 どちらにしても、私に拒否権はなさそうです。そういうわけで、急遽私の生活に「ダンスの練習」という項目が一つ増えました。


 自分の将来に「結婚」というビジョンが無かったので、社交界デビュー等も考えたことがありませんでした。それを言えば貴族令嬢としての生活自体も、自分がそれをすることになるとは考えたことがなかったのですが。


 ダンスの練習それ自体は習得してしまえば、なかなか楽しいものでした。貴族の令嬢というものは、身体を動かすこと自体が少ないので、ポーション作りと並ぶ気分転換のコンテンツとなりました。


 ポーション作り……

実家にいた頃から、私が病気になろうが怪我をしようが、気遣ってくれる者もおりませんでしたので、庭師たちに教わったポーションが私の生命線でした。


 庭師たちが私の実家である子爵家を追われてからは、道具類もないのでポーションを作ることも出来ませんでした。せいぜい薬草を煎じたものを飲むのがやっとの生活だったのですが、それでもなんとか病気にもならずに暮らせていたので効果はあったのでしょう。


 サンダース家に養女として引き取ってもらってからは、道具類を揃えてもらえたのです。薬効の違いを確かめるべく、色々と試しているところに社交界デビューの話を聞いたのでした。


 デビュー後はおそらく、侯爵家の思惑通りの見合いとなるでしょう。生きていくための仕事として、私は結婚を受け入れることになるでしょう。


 出来れば、ほんのりとでも好意を持てるお相手だと良いのですが……


 どうしても駄目だったら、出戻っても大丈夫だろうか?最悪出奔となっても、どこかで薬草作って生きていけるかもしれないし、と私のポーション薬効比較実験にも力が入るというものです。


 前世のファンタジー小説で読んだポーションというほどには、今世のポーションは即効性はありません。


 飲んでも掛けても効き目がある、という点では同じなんですけどね。


 私の中でのポーションは、「もの凄く効き目のある抗生物質で消炎鎮痛剤で造血剤」という感じでしょうか?


 おそらく自己免疫を高める成分があるのでしょう。風邪や発熱なんかには、もの凄く効きます。ちょっとした怪我をした時もよく洗って振り掛けておけば、化膿もしません。


 劇的に治る、というほどでもないけれど、何もしないでいるよりは治りが早い、という程度のものです。


 平民や、貴族であっても然程裕福でない場合は、このポーションを購入します。


 お金のある平民や貴族は、治癒魔法を使います。治癒魔法は希望する人数に比べて、魔法自体を使える人が少ないので非常に高価です。


 ただ今回のミッチェル様の件で、ダネル先生の「他人の魔力の滞りが眠り病の原因である」という持論が証明されてしまったのです。


 これからは貴族たちもポーションを競って、ポーションを手に入れることになるでしょう。


 今後はポーションの、というか薬草の価値も上がるのではないでしょうか?


 平民がポーションを、手に入れられなくなる日も来るかもしれない。かつて、薬草を育てて生き延びていた私には、そんな未来は望むところではありません。


 たった一人の、自分の未来さえおぼつかない女には気の重い話ではありますが、ここで何らかの手を打たねば、平民たちの安寧が揺らぐかもしれません。


 そして、その「平民たち」は、病気や怪我で働けなくなったらどうしよう?と怯える「かつての自分」と同じ存在なのでした。



 


 

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