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「はぁ?」メアリーから聞いた話に私は、力が抜けました。
本当にはぁ?としか言いようがありません。
「それはわたくしにはまったく関与できない出来事ですわ。侯爵閣下のお考え次第ということですよね?」
メアリーは肩をすくめて、そうねと言った後、更に飛んでもないことを言った。
「そのお考え次第ということで、わたくしたちの結婚も左右されるということよ」
「は?わたくしたち?それってメアリーだけじゃなくって、わたくしも含まれているの?」
「そうよ、わたくしたち、わたくしとアメリアの結婚ね。わたくしは元々どこかの後妻にでもなるかもしれないと思っていたけれど、問題はこれからは低魔力の人間も役に立つってことよ。だから、ひょっとしたらわたくしとコナーやクィンシーたちと結婚することになるかもしれないわ?」
「魔力の少ない者同士、つがって低魔力の子を増やせって?家畜じゃあるまいし」と私が言うとメアリーは、貴族同士の結婚なんてそんなものよ、と冷静に返してきた。
言われてみればそういうものかもしれないな、と私も考えを新たにした。子どもの将来だったり、家だったりその時大事なもののために、貴族は結婚して血を繋いでいるのだ。
「とりあえず、アメリアの社交界デビューが確実になったことだけ先に伝えておくわね。きっと今日明日にでもサンダース伯爵からお話があるはずよ」
「……なによ、それって」
「結婚する未来が見えたなら、こういう娘がいますよって、社交界に披露するのが貴族ってもんでしょ?」
「……」急に私の人生が私だけのものじゃなくなってしまった。以前は生きていくだけの仕事さえあればと思っていたけれど、付加価値の付いてしまった今、周りからも利用価値があると思われてしまったのだ。
結婚かあ…… 出来るだろうか?
黙って考え込んでいるアメリアを横目に、メアリーは言わずにいた事を思い返していた。アメリアの結婚相手の候補筆頭が、ミッチェル様だということを。
ミッチェル様とアメリアが結婚すれば、この貴族特有の眠り病への対策とロマンスを大々的に打ち出せたはずだったのだ。
まさか領主としての教育を受けたミッチェル様が、あれほどアメリア(魔力無し)に忌避感があるとは……
メアリーは低魔力の令嬢として、散々ヒソヒソと陰口を叩かれていた子ども時代を思い出していた。主筋の次期当主であったミッチェル様から、あれこれ言われた記憶はなかったが、実はミッチェル様があのヒソヒソ話をする人側の人間だったか、というがっかりした感じは否めなかった。
今まさに現在進行形で、侯爵夫妻やイングリッド様たちからミッチェル様はアメリアとの結婚を受け入れるよう言い聞かされているところなのだった。
これに関してメアリーは、頭で考えて理解はできても納得はできない、という事実を侯爵様たちが体感することになるだけなんじゃないかと思っている。
身についた偏見というものは、わりと根強いのだ。そして差別される側としてメアリーもアメリアもそれをよく知っている。
貴族として教育され、気持ちを顔や態度に出さない人であっても、心からの忌避感というものはその対象となる相手には通じるものなのだ。
いくら侯爵様たちが説いて、ミッチェル様に諾と言わせたところで、ミッチェル様からの嫌悪感はアメリアにはひしひしと伝わることだろう。アメリアが嫌ならメアリーはどうか?と言われたミッチェル様に、メアリーが紹介されたときに感じたように。
それにしても本当に、馬鹿にした話だとは思う。こちらからマッサージや介添として体に触れることは当たり前として受け入れるのに、ミッチェル様から私たちに触れるのは、高々一瞬のエスコートであってもイヤイヤであるというのが伝わってくるのだから。
わたくしたちだって、好んで自分を嫌いな男性に嫁ぎたいわけではないのに。わたくしたちは否応なく結婚を命じられるのに、ミッチェル様には一応の打診があるのだ。最終的に首を立てに振らされるとしても。
身分があるというのは、羨ましい限りだわ……とメアリーは思った。