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不遇の姉は、未来を拓く  作者: きむらきむこ
貴族編
13/29

 4

 ケイリーが、ミッチェル様への全身マッサージを始めて一週間。


 私が見るのは足や手だけなのですが、かなり全身の浮腫も減ってきたようです。


 ダネル医師のいう「魔力の滞り」が少しづつ解消されているようです。


 私とダネル医師とで話し合い、全身を通る魔力の通り道を便宜上「魔力腺」と名付けることにしました。


 前世でいうところのリンパ腺も確かに私達の身体には存在していて、魔力のない私でも風邪をひくと扁桃腺が腫れるというようなある種のリンパの異常はあるのです。


 私がケイリーやメアリーのマッサージをする際には、仄かに血管の近く、リンパのある辺りに魔力の流れを感じます。


 これが、反対に彼らが私にマッサージをする場合は全く感じ取れないらしいので、私には魔力腺がない、もしくは魔力線はあるがなんらかの分泌異常で、魔力が分泌されていないのでしょう。


 ミッチェル様の看護をされているダグラス卿に確認すると、マッサージを受けるようになってからミッチェル様にも時折意識のあるご様子が見受けられるとのことです。


 眠っていた人が目覚める前の様子、という感じでしょうか。私たち看護チームもミッチェル様のお目覚めも近いかと、気持ちを引き締めてその日を待っておりました。




 「……」 「……」


 ミッチェル様の寝室から何やら話し声が聞こえます。普段からダグラス卿や私、ケイリーが一方的にですがミッチェル様に話しかけることはままあるのですが、少し感じが違うようです。


 「ミッチェル様がお目覚めです。ダネル先生にご連絡を」ダグラス卿が、落ち着こうとしつつも隠しきれない興奮をまとい、控えの間に来られました。


 ケイリーが、ダネル医師に一報入れるために部屋を出ます。私は一通りの洗顔の用意を整えて、ダグラス卿に差し出しました。


 

 ダグラス卿はゆっくりと洗面道具を乗せたカートを押して、寝室に入っていきました。冷静を装いつつも、どこか浮足立った様子が見て取れます。


 ここ一週間のミッチェル様のご様子から、ダウニング邸で彼の人の覚醒を待っていたダネル医師が、部屋に駆けつけます。


 やはりダネル医師も、興奮が隠しきれないご様子です。ダウニング侯爵夫妻もダネル医師に少し遅れて到着されました。


 貴族教育の所為でしょうか、お二人とも走ることはさならないのですが、今日この時に限っては競歩の選手並の速さで歩かれています(ダネル医師は見事に走ってこられました……)


 医師とご夫妻の後ろから、私もミッチェル様の寝室に入りました。



「ミッチェル…」

 侯爵ご夫妻とミッチェル様が、固く抱き合っておられるのですが、ミッチェル様には戸惑いの方が多く感じられているようです。


 ミッチェル様はご自分の、恐らくは筋肉が落ちて細くなった腕や寝たきりのために力の入らない体幹に、驚きを隠せない様子でおられます。


 ふと、周囲を見回して私とケイリーに気がついたミッチェル様は、こちらに向かって声をかけられました。


「君たちがアメリアとケイリーか。世話になったようだな、毎日ありがとう」


「もちろんダグラスも毎日世話をしてくれてありがとう。こうして目覚めることができたのもおまえのお陰だよ」



ミッチェル様は、私たちみんなを労って下さいました。


 どうやら意識がないと思われていたミッチェル様ですが、眠った状態であっても私たちがしていることや声掛けは通じていたようです。


 寝たきりになってから二年以上が経っていることや、侯爵家の跡取りがイングリッド様に移行したこともご存知でした。


 このあたりの話は、侯爵夫妻とミッチェル様との会話をそばで聞いて分かったことです。ミッチェル様は動かせない身体の中で、私たちが語る状況をしっかりと理解しておられたのです。


 ただ、今のところご本人の意識で身体を動かそうにも、痩せ衰えた体躯が重く、思い通りにならないことに焦りを覚えておられるようでした。


 ダネル医師のひとまずの診察でも、異状がなかったミッチェル様は、久しぶりのご両親との会話などでお疲れになったらしく、私たちはダグラス卿を残して部屋を下がったのでした。


 


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