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不遇の姉は、未来を拓く  作者: きむらきむこ
貴族編

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 学園卒業後しばらくして、私はアメリア・サンダース伯爵令嬢となりました。


 一旦実家の籍を抜けて平民になった後サンダース家の養女となったのです。これは、ダウニング侯爵家に縁付く事で、実家から口出しされるのを防ぐ為でもありました。


 サンダース伯爵家はダウニング侯爵家の遠縁で、所謂家令や家政を取り仕切るといった奥向の仕事を担っているようです。


 私はその家の三女として養女に入ることになったのです。


 嫡男のチャールズ・リスト・サンダースの妻が、ケイトリン様で今まではサンダース夫人とお呼びしていたのですが、これからは「お義姉さま」と呼ぶことになりそうです。


 生まれた実家では居ないものと扱われて、貴族令嬢としての嗜みや教養などほとんど学んでいないので、義母から刺繍など手ほどきされる日々です。


 マナー自体は学園での講習や、サンダース夫人もといお義姉さまからイングリッドさまの前に出るためにビシバシと叩き込まれましたので、ある程度は身に付いております。


 ところが、この身についたマナーが主に「侍女のマナー」であって、伯爵令嬢のマナーではないところに落とし穴が……


 使用人ではなく、令嬢としての所作を身に着けるためにも卒業後は静かに義母や義父と過ごしております。


 そうした穏やかな生活に終わりを告げたのは、侯爵様とダネル医師からの呼び出しでした。




 侯爵様とダネル医師のいらっしゃる応接間で、ご挨拶をして近況などを語り合って←イマココ状態のアメリアです。


「今回アメリアを呼んだのは、頼みたいことがあるからだ」と侯爵様が私に向かって言われました。


「どういったことでしょう?」


侯爵様は言い出しにくそうに、目を泳がせておいでです。


「ダネルと一緒に、お前に診て欲しい者がいる」

 侯爵様はダネル医師に向かって頷き、そのまま説明を彼に譲りました。


「患者はもうすぐ20歳になる。二年ほど前に事故に遭い、重傷を負った。怪我自体は治癒魔法で治っているが、目覚めない。いや、目覚めている時もあるが、意識はないという方が正しい」


 ダネル医師は、そのまま患者の説明を続けました。


 概要は、こんな感じ。


 学園を卒業したその青年は、将来自分が治める土地を活動的に視察していたそうだ。ところが、馬車を走らせていた地盤が緩んでいた為に馬車ごと山の斜面を落ち、馭者は即死。乗り合わせていた侍従や侍女、主である青年も重傷を負ったとのことです。


 侍女は体力の無さが災いしてか、しばらくは寝込んでいたが、治療もむなしく亡くなったそうです。


 若い侍従は、馬車内での立ち位置が良かったのか怪我も軽く、今は寝たきりの主人の世話をする日々だそうです。


 その青年の意識の戻らない原因が、ダネル医師の考えでは魔力の詰まりでは?ということらしいのですが……


  そこでアメリアちゃんの登場と言うことですね。了解いたしました。


「ただ、本当に魔力の滞りが原因とは限りません。わたくしの力が及ばないこともある、とお考えいただきたく存じます」


「……これに関しては、藁にもすがるというその藁がお前なのだ。彼が助かれば、高位貴族にも助かるものが出るはずだ」


「それはどう言うことでしょう?」


「その話は、まず今回の効果を見てからということにしよう」


「頼んだ」侯爵様は私に向かって、最敬礼と言って良い程の深い礼をとり、部屋を出ていかれた。


 部屋に残された私は、アタフタとダネル医師をすがるように見ました。


「アメリアに診てもらう患者は、ミッチェル・ローワン・ダウニング ダウニング侯爵家の長男だ。あの事故が無ければ、次期侯爵だったはずだ」


  少しばかり気むずかしいきらいはあったものの、期待の跡取り息子だったらしい。


  イングリッド様のお兄さまか……

 学園卒業後、社交界に出なくなったと噂のお兄さま。


 お兄さまがいらっしゃるのに、なぜイングリッド様が次期侯爵なんだろうと思ってたけど、そういうことだったのか……


 平民並みに、貴族社会に疎い私には全くの初耳でしたよ…… 

 

ここまで読んでくださってありがとうございます。

すみません、しばらく不定期更新となります。

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