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「貴族に生まれたのに魔力が無いなんて」「魔力無しのくせに」
幼い頃から家族や使用人、それも下働きの者からもこういった事を面と向かって、もしくは陰で言われてきた。
アメリア・ターラント ターラント子爵家の第一子にして長女13歳です。
こんな風に言われても、私の中の常識では「人に魔力は無い」ので、それほど影響は受けませんでした。
そうです。いわゆる「前世の記憶」というやつが朧気ながらも、私の中に存在していたため、物心ついた時にはすでに性格の芯になるものが仕上がっておりました。
今の私が生まれ出たこの世では、人は殆どの場合魔力を持って生まれます。貴族はもちろんのこと、平民であっても簡単な生活魔法、つまりは少しの水を出したり、小さな火を着けたりと言った魔法が使えるのです。
水が出せるとはいえコップに出して飲む程度、火だってカマドに種火を起こすくらい。だから井戸での水汲みは必要不可欠な作業だし、カマドやお風呂で薪は使われる。
魔力無しの私と、平民との魔力差に大差はないと思う。
これが、両親や妹といった一般的な貴族と私との差となると、それはもう雲泥の差と言っていいとは思う。
前世の記憶のないまっさらで生まれた私であったなら、世を儚んで……となってもおかしくはないくらい、貴族に魔力がないというのは致命的に問題でした。
私が生まれてから二年後に、父方の家系のプラチナブロンドに薄いブルーの瞳を受継ぎ、貴族としても多めの魔力を持った妹が生まれました。
妹の誕生には、両親や父方の祖父母が歓喜に湧いたそうです。
ちなみに私はハニーブラウンの髪に深い青の目で生まれた。髪の毛は学園に入った頃から少しずつ色合いが金色に変化してきました。
家族的には、私はいないものとして扱われています。私が生まれたことで母を不貞を疑われた事もあったようだし、妹が生まれるまでは夫婦関係も少なからず拗れていたようなので、まぁそれも仕方ないのかもしれない。
それでも子どもは親に愛されたいと思うものでしょう?
もう少し小さい頃は両親と妹の間にある家族間の触れ合いや親密な会話に、寂しさも覚えたものだけれど、数年のうちに私も諦めと割り切りを身に着けたのでした。
家族から不要とばかりに疎遠にされていても、一応私の名前は長女として登録されています。故に王立の学園に通う事となったのでした。
学園というのは、貴族が基本的な魔力の扱い方を学び、魔力の相性などから将来の縁を結ぶために13歳から子息子女を集めて、二年間一時的に集団生活を行う場です。
私の両親も、ここで出会って結婚したはずなので、ここで評価される「魔力の相性」というのに私は疑問を持っている。
貴族であっても魔力を持たない私のような者も少数ではあるが生まれるし、平民でも魔力多めの者は存在するので、学園には平民の子も通っている。
学園で良しと判断されると、平民であっても貴族に婿なり嫁なりとして迎え入れられるし、能力が認められると文官や兵士といった職業につくこともあるので、平民にとっては将来の安泰のために努力する場なのです。
私のような魔力無しの子女にとっては、卒業後に就職するために必要なコネづくりのための場でもあるのです。とは言え、家族であっても家族として扱われない身であるので、学園であっても良い待遇を受ける訳ではありません。
ある種の貴族にとって学園は、跡継ぎ以外の子どもを「大人になって自立するための教養を身に着けるところまでは面倒を見た」という言い訳をするための機関となっていました。
そういう理由で私は、ファリアーノ王立学園に入学することになりました。王国全土から生徒が集まる学園には、王都にタウンハウスの無い生徒の為に、男子寮と女子寮が併設されている。私がそこに入寮することも同時に決定事項とされたのでした。
身元の保証だけはあるので、将来王宮の下働き位にはありつけるかもしれない、程度の気持ちを抱いて私は入学したのでした。