第52話 M22:追悼と新たな道 Memoria e la via nuova
「ディアいいかな?」
「うん、分かった。多分何とかなる。準備しとくよ」
仕方のないことなのは良く理解できるが、どうしても追悼してあげたい。
ディアは全て取り計らってくれた。それでも、追悼への参加は固辞した。
「直接会ったことないし、仲間内だけの方が本人も喜ぶと思うよ」
エドは喜んだ。
「是非、やって欲しいわ!」
建国2年祈月30日(30/Preghiera/Auc.2)
天気は快晴、運命の女神は配慮してくれたらしい。
希望の町を見通せる丘陵の上、ミクのための碑が建つ。
碑の前には五人
わたしとはるっち
ミクと良くパーティを組んでいたという冒険者が二人
そして追悼の歌のための吟遊詩人
冒険者の一人は、中肉中背の男性、背に弓を抱えている。
もう一人は、やや小柄で瑠璃紺の作業衣みたいなのを着ている。
「今日は、みなさんありがとう。ミクもきっと喜んでいます」
エドが頭を下げ、促されたように竪琴が響く。
「ご指名を頂きました。このジョルジュ・ド・コルヴェ、拙き芸なれど、追悼の歌を謡わせていただきます」
春まだ浅く 月若き
生命の森の 夜の香に
あくがれ出でて 我が魂の
夢むともなく 夢むれば
狭霧の彼方 そのかみの
希望は遠く たゆたひぬ
自主の剣を 右手に持ち
左手に翳す 愛の旗
自由の駒に 跨がりて
進む理想の 路すがら
今宵生命の 森の蔭
水のほとりに 宿かりぬ
そびゆる山は 英傑の
跡を弔ふ 墓標
音なき河は 千載に
香る名をこそ 流すらむ
此処は何処と 我問へば
汝が故郷と 月答ふ
勇める駒の 嘶くと
思へば夢は ふと覚めぬ
白羽の甲 銀の楯
皆消えはてぬ さはあれど
ここに消えざる 身ぞ一人
理想の路に 佇みぬ
……
竪琴の旋律に乗せてミクの想い出が流れて行く。
もう少し一緒に冒険したかった。話も聞いてみたかった。
何を思ってこの世界に来たんだろう。何を感じてこの世界を生きたのだろう。
一人ずつ碑に近付き、花を一輪手向ける。
はるっち、わたし、良くパーティを組んでいたという二人
最後にエドが名残惜しそうに花を置く。
追悼の歌がゆっくりと終わる。
沈黙の中、風の通る音だけが続いて行く。
エドが語る。
「みんなありがとね。人知れず荒野で退場していく人たちも居るのに、こうやって生きた証が残るのは本当に良かった」
「ありふれた物言いじゃが、ミクの分まで生き抜くのが本当の弔いではないか?」
「銘はこれで良かったかな?」
「ええ、良いと思うわ。これ以上は必要ないわ」
ミカエラ・アルムグレン
あなたを忘れない
追悼に参加していた二人のキャラクタをエドが紹介してくれる。
「結月琴音です。“ことね„ と呼んで下さい」
「拙は如月榛名という。“はるっち„ と呼んで下され!」
「弓師をやっております、長野信越と申します。気軽に “シン„ と呼び捨てにして下さい」
目元涼やかで自信に満ちた雰囲気、好青年という感じだ。
「何だかご出身が分かるような……」
「それは、ご想像にお任せします」
「初めまして、カタケルスス・ホーエンハイムと言います。薬剤など始め、色々なものを製造しています」
人懐っこい笑顔で語る。瑠璃紺の服が良く似合う。
「“カタケルスス„ と呼んでいただければ嬉しいです。“カタ„ とか “ケル„ とか呼ぶ人がいるので」
「変わったキャラ名ですね」
「錬金術師には変わった人が多いので、少し目立つ名前にしようかと思いました」
「小拙は、吟遊詩人をやっております。現在叙事詩創作のため、ことね殿と同行させていただいております」ポロロン♪
いや、竪琴はいいからさ
「おぉ、ジョルジュさんは、ことねさんを主役にされるのですね。お披露目の際は是非呼んで下さい」
「楽しみじゃのぅ」
「そうねぇ、あたしも楽しみだわ!」
いや、いやいや、止めて下さい。切にお願いします。
「ミクさんの導きで知り合いに成れたのですから、機会があれば是非ご一緒に依頼などに行きたいと思います」
信越さん、かなり自信ありそう。
「エドも、今度一緒に行こうよ!」
「えぇ、そうね。落ち込んでばかりいたらミクに悪いと思うわ。前を向かないと」
その機会は意外に早く来た。
*「春まだ浅く」
石川啄木 「雲は天才である」の挿入歌
映画「情熱の詩人啄木──ふるさと篇」(1936年/昭和11年、監督熊谷久虎) の挿入歌 作曲 古賀政男
第1連の5行目と6行目は助監督安達伸男が補作
曲については著作権がありますが、詩については "Public Domain" と成っておりますので問題ないと考えます。




