第47話 F19:舞花 Fiori ballanti
いや、確かに野宿中だったのだけど
全く予期しないインスタンスに巻き込まれる。
何処だろう?
芝生の上に仰向けに寝ている。
青く透き通る空を背景に桜吹雪が舞う。
ここは日本?
遠くに戦いの声が聞こえる。
「おぉ、目覚められたか?」
戦装束の武士が話し掛けて来る。
「あなたは?」
「これは申し遅れた。拙者、源三と申すもの、お見知り置きを」
丁寧な物言い。ここは戦国時代だろうか?
「して、どなたでござろうか?」
「あ、失礼しました。アルフィと言います」
「あるひさま?」
「言い難いかもしれませんね。ここは私の居た世界とはかなり違っています」
「異様なお召し物であるし、日本のお方とは思えません。異なる世界から来られたと聞いて得心いたしました」
「そうですね。私も知らないうちに此処に来てしまいました」
「神仏のお計らいかもしれませぬな。まずは我が主君とお会い下され」
「良いのですか? このような見知らぬ者を偉い方に会わせて?」
「はははっ! どう見ても忍者とは思えませぬ。それに」
「それに?」
「我らは敵に追い詰められておりましてな。この山に籠る僅かな手勢しか居りませぬ。敵は大軍、しかも取り囲まれて居り、逃げる隙間もありませぬ」
そう話しながら、この侍は案内する。
一軒の屋敷――いやもうかなり荒れた家の前で、奥に声を掛ける。
「殿!」
「源三か」
応えてゆったりと現れる。
歳は十五六、”紅顔の„ という形容詞がぴったりの美少年がそこに居る。
「殿、お客人をご案内しました。あるひさまとおっしゃるそうです」
「良く参られた。生憎であるが、立込んで居ってな。もてなしもできんのだ。ご理解願いたい」
片膝をついて頭を下げながら応える。
「お初にお目にかかります。私も此方へ来たばかりで状況は良く分かりませんが、ここに居るということは故があるのでしょう」
「ほぅ、さすれば異なる世界から我らの最後の戦いを見届けに来た。ということかな」
「この源三も、そのように思います。神仏のご配慮と思われまする」
「良かろう。我が傍らにあり、我らの戦いを存分に見るが良い」
「何処へか落ち延びるという選択はないのですか?」
「いや、父は既に討死、我は嫡流の最後の生き残り。敵が生かしてくれるとは思えぬ」
「分かりました。御心のままに」
「来たぞ!」
見張りの声と共に、鬨の声を上げながら敵軍が押し寄せる。
「今こそ、我らの武士の意気地を見せる時、行け!」
源三の声に配下の者たちが一斉に立ち向かう。
さすがに不利を承知で付き従う者たち、気力を振り絞って敵に当たるが、多勢に無勢、一人また一人と倒れて行く。
「源三さん、下がって! ここは阻止する」
「しかし」
「心配しないで、早く主君の下へ」
「かたじけない!」
なだれ込んでくる敵の前に火魔法を放つ。
「火の壁!」
燃え盛る炎に敵兵たちの脚が止まる。
「聞け!」
思わず叫ぶ。
「帰趨は決した。後は武士らしい最後をさせてやれ! 貴様らも武士の端くれなら分かるだろう」
すると前線の指揮をしているらしい武士が進み出る。
「得体の知れぬ技をお使いになる。さすがは御館様、神仏の加護があると見える」
「分かってくれるか?」
「良かろう。我ら一同控えて待とう」
「ありがとう」
振り返って主従の方を見る。
「有難い。これで武士の面目も立つ。源三、後は頼んだぞ」
「ははっ! この源三、介錯仕ります」
「異なる世界の人よ。世話になった。我らの事伝えてくれ」
「確かに承りました」
彼は古式に則り世界から消え行く。
そして、ひとつの歌を残す。
あだに見よ誰もあらしの桜花さき散るほどは春の夜の夢
略綬は――蒼空に桜の花弁が舞う。




