第44話 F17:修道女 Suora
明日に向かう町、酒場兼宿屋 ”ピエトロの店”
今日は、建国2年祈月18日(18/Preghiera/Auc.02)
久しぶりに、同期で集まる。これから先のことも相談だ。
店に入るともうみんな揃っている。
ボクも紅茶をダブルで頼んで席に着いた。
「生命の腕輪はどう?」
やっぱりアップ・デートは楽しいよね。
「幻影か? わたしは、小さな犬だな。何というか狩りの友というところか」
「俺は、熊だな。少し愛嬌があり過ぎるが」
「ボクは、青っぽい妖精さんだね。可愛いよ!」
「こちらの方は?」
サヤの隣に、女の娘って感じのキャラクタが座っている。
「ああ、三人で行こうかと思った依頼があったのだが、回復役がいないので誘ってみた」
「コーリ・スグルといいます。初めまして、よろしくお願いします」
修道女と呼ぶのが良いのだろうか? 聖職者風の白い上下と長いコート、如何にも回復役という感じだ。
「おぅ、良いんじゃないか? 俺は賛成だ」
「確かに回復役は必要だしね」
「ありがとうございます。一応水系が得意です」
素直に頭を下げて来る。白い帽子も可愛い。
「それで、コーリの幻影は?」
「あたしのですか? 何だか赤くって小さなトカゲさんなんですけど」
「サラマンドラ?」
「まさか、そんな有名なものじゃないと思います。あたしってトカゲさん好きですから、気に入ってます」
笑顔に少しばかりの不気味さが混ざるのは気のせいにして置こう。
「さて近況報告と行こうか」
サヤがリードするのはいつものことだ。リーダーはこうやって自然に決まって行くのかもしれない。
「最初は、わたしからだな。今は弓手協会でスキル磨きといった処だ。確かに色々なスキルを見ることは参考になるが実戦不足になるな」
「俺も同じような状況だ。槍を持つキャラクタが集まってスキルを研究しているが、飛び抜けた奴がいない。限界を感じている」
「ボクは運が良いのかもしれないな。旅立ちの村の教官だったリネカーさんに師匠をして貰ってる」
「ああ、そういう話だったな」
「師匠からはこんなことを言われた」
いいかアルフィ、無闇に大技を覚えても仕方がないのだ。
スキルは適時適切な使い方が必要だ。その判断力を磨くことが大切だ。
研ぎ澄まされた自分の勘が最後の拠所なのだ。
「なるほどな、意味は良く分かる」
「回復役はパーティ全体を見てスキル掛けることが多いのですが、このゲームはHPが見えないので、適時適切の判断がとても難しいです」
「怪我の状態とかは判別できるだろう。それこそ腕の見せ処じゃないのか?」
「そうですね。そう考えることにします」
「安全係数は大きく取った方がいいよね。シーフなんて逃げるのは当たり前の戦術だから」
「確かにそうだな。撤退は早めに指示することにしよう」
「ああ、頼むぜ。立往生などしたくなからな」
「これは弓職というか、わたしの悪癖なんだが。弓は攻撃力があるので、つい敵と勝負をしたくなるのだ。被害が自分だけなら自業自得なのだが、パーティを巻き込んではいけない。注意はしているのだが、そういう処が見えたらすぐに警告して欲しい」
「まぁそれくらいにしよう。で、今度の依頼はどうなんだ?」
「そうだ。これが今日の本題だ」
サヤが内容を説明する。
鉱石収集場の一つに、最近アンデッドが出没するらしい。
通常のフィールドでは、まず発生しないので、ダンジョン化した可能性がある。
簡単に退治出来れば良いが、大規模なら討伐隊も考えなければならない。
とにかく情報を集めて報告して欲しい。
あまり慣れていないパーティというのは理解している。
無理をせずに早めに引き上げて貰っても問題ない。
「なるほどな。問題なさそうだ。俺は参加する」
「ボクも行くよ。アンデッドがどんな風か見てみたい気もする」
「そうだな。他ゲームとどれくらい違うか拝見と行こう!」
「よし、決まりだ。頑張ってみよう。無理はなしでだ」
「あの、あたしってこっちに来たばかりで、どれくらい皆さんのお役に立てるか分からないのですが」
「心配ないと思うよ。行く途中で敵に出会うのは間違いないし、その時に色々試してみようよ」
「俺もそう思う。とにかく危ないと感じたら、さっさと帰ってくればいいのだ」
「それでは、明日の第一昼刻の早い時間に南門の前に集合してくれ! 今回の依頼は時間が掛かりそうだ。準備は十分にしてきてくれ」
こういう時のサヤの指示は明確で有難い。
「あぁ分かった。また途中で食糧補給もしようぜ!」
相変わらず楽しそうだ。ゲッツは本当に冒険好きだな。
「あの、皆さんよろしくお願いします」
コーリに関しては、一緒にやってみるしかないか、万一のために回復剤は多めに用意しよう。
「あ、サヤ!」
「ん、何だ?」
解散しようとしていたサヤを呼び止める。
「えとね。罠の中に、脚止めトラップというのがあるんだけど弓職で使える? 敵の脚止めて弓で攻撃って出来るんじゃないかと」
「それは良いな。そういうアイテムを常用するゲームもあるくらいだ。出来れば多数用意してくれると有難い。費用は負担する」
「分かった。今回はボクが造ったお試し品なので無料ね。ただ性能に不安あるから注意しながら使って欲しい」
「了解だ。これから先も、そういうアイテムについては相談したいな」
笑い声に振返るとゲッツがこちらを見てる。
「ゲッツ、どうしたの?」
「俺たちは相性が良さそうだな。腐れ縁になりそうだ」
「ゲッツ、フラグ立てないで!」




