第21話 F8:お祭り? Festa !
乾月22日 (22/Secco/Auc.02) 第五昼刻、旅立ちの村に帰り着いた。
初心者指導所の教室に戻り、教官から最後の話がある。
「良くやった」
御厨教官が話し始める。
「予想以上に実力を付けていると思う。このまま次の町へ行っても十分通用するだろう。焦らず、驕らず、力を伸ばして欲しい」
あまり笑顔を見せない人だが、今日は機嫌が良いようだ。
「さて、これで全ての指導が修了した。君たちに “冒険者„ の称号が付与される。略綬も色が変化する」
“冒険者を目指せし者„ の略綬の地色が、朱鷺から真紅に変わっている。
「これで、君たちも一端の冒険者だ。しかも平均からかなり上の実力は十分あると思う。油断をせずに一歩一歩段階を踏んで上を目指して欲しい」
ゲッツが軽く手を挙げる。
「教官、ひとつ聞きたい。ここの冒険者は何を目標にして生活してるんだ? “魔王を倒して世界を救う„ とか “女神を復活させて新世界へと導く„ そういうありがちな目標が全く見えてこない」
「早くもそれに気付いているのか。ここには、そういう目指すべき目標とか達成すべき事柄などはない。“人間が大勢集まったとき、人は何をするか?„ というのが大きな研究テーマだからだ」
「なるほど、自分で見つけろと。俺には向いているかもしれない」
「私からも質問がある」
サヤから声がかかる。
「通信ついて聞きたい。他ゲームで良く使用されるが、1対1ではウィスパー、全体ではシャウトなどは、ここには存在しないのか?」
「ここで出来るのは、冒険者ギルドを通して、友人に郵便を送ることと、吟遊詩人たちによる事件の伝達くらいだ。情報を極端に制限するのも研究に沿った考えだからだ」
「全体のゲーム状況などをユーザー達に知らせる手段はないのか?」
「この世界では、マス・メディアが存在しない。そういう状況の中で自分の目標を見つけ出して欲しい。運営が何かへ誘導することは禁止事項なのだ。いわゆる、ニュースは存在しない。あるのは、冒険者ギルドの掲示板と吟遊詩人の叙事詩くらいだな」
ボクには特に質問がなかったので、教官の話は終わる。
「これで指導は全て修了だ。後は君たち自身の脚で歩くだけだ。善きゲーム・ライフを!」
指導所でやることは全て終わった。
ささやかな祝宴ということで、三人で酒場に集まる。
「お疲れさま~」
エールの杯を合わせる。
何だかホッとした気持ちになる。
二人も同じ気持ちのようだ。
サヤから話が始まる。
「さて、これで指導所も最後の夜だ。これからどう行動するか決めないか?」
「ボクから提案だけど、次の町まで一緒に行かない?」
「俺はいいぜ。ここもそれなりに整っているとは思うが、腕を磨くなら次の町が良いだろう。教官からも話があったしな」
「わたしもそう思う。ここに留まって腕を上げるというのも一つの選択だとは思うが、思ったより人が少ない。次の町に期待したい」
「そうだよね。それで、移動するならソロより三人の方が心強いしね」
「ずっと一緒に行動というのも芸がない。俺はソロ指向だしな。とりあえず次の町へ行って、それから一旦解散しないか? 何も別れてしまう訳ではない。気が向いたらまたパーティを組めばいいのだ」
「向こうには様々な冒険者が居るだろう。その中で揉まれながら自分のやり方を身に着けて行く。定番で王道だな」
「ボクからだけど、移動するときは、解毒剤は十分に準備した方が良いと思う。この世界の毒はかなり危険だと感じたね」
「ああ、かなりのモンスター・ドロップもあったし、金に多少の余裕はあるしな。準備は怠りなくだ」
「確かに、回復魔法は何とか会得したが、我々は解毒魔法を持っていない。そこの注意は必要だ」
「ボクが今一番欲しいスキルだね」
「俺は、次の町までの道程は三日と聞いた。不慮の事態に備えて六日分の食料は必要だろう。知らない場所に行くのだから余裕が必要だ。途中でモンスター・ドロップや収集による補充も考えよう」
「みんな慎重だね」
「このゲームは一発退場だからな。二人とも俺よりHPが低いだろうし、安全第一で行こう」
「ああ、こんな所で退場となったら笑い者だしな」
ボクたちは、次のステップの話で盛り上がる。
翌日、乾月23日 (23/Secco/Auc.02) 第一昼刻
これで初心者指導所とお別れだ。
部屋のドアを開け、振り返る。
ほんの短い期間だったけど住み慣れた我が家
前の住人はどうなったのだろうか? 次は誰が使うんだろうか?
想いを振り切り、誰もいない部屋に向かって囁く。
「ありがとう……いってきます」
初心者指導所の前に二人が待っている。
「ことね、こっちだ!」
「ごめん、遅れた」
「気にすることはないぞ! 俺も来たばかりだ」
「まずは、食事しながら今後の行動を確認しよう!」
冒険者ギルドの上側にある洞、いわば二階という感じの所にある酒場に向かう。
さすがに朝からアルコールはないが美味しい朝食が出る。
朝食後、お茶を飲みながら必要なことを確認して行く。
「指導所で貰った “初心者用イル・モンド概説„ は役立ちそうだな」
「ああ、俺もそう思う。付近の町や途中の野宿地の位置関係、出現しそうな敵の概要、食料となる代表的な動植物、どれもこれも貴重な情報だ。特に、まだ出会っていない敵の情報などはとても有難い」
「生命の腕輪のアドオンだけど、サバイバルには欠かせない情報ってわけだね」
「しかし、これが全てだと思ってしまうのは危ない」
「そうだな。このゲームは何が出るか油断ができん」
「さて、これが次の町までの地図なのだが……」
サヤが少し首を振りながら地図を開く。
「何か面倒なことでもあるの?」
「聞くところによると、道程が常に変化するらしい」
「それは俺も聞いた。行く度に道順が変化するとな。なかなか楽しそうだ」
「変化すると言っても、三日の行程が三十日とかならないよね」
「ああ、大体の距離と位置関係は変わらないらしい。西へ向かって三日の行程なので野宿地も途中二個所ある」
「しかしだ。気になることがある」
「ああ、概説にあるキラーモンスターだ」
「キラーモンスターって何?」
「周囲のモンスターより極端にレベルが高く、初見のプレイヤーが退場に追い込まれることが多いモンスターだな」
「次の町に行くときの関門というわけだ」
「注意は必要ということ?」
「必ず出会うとは限らないがな」
「まぁ、先を心配しても意味がない。初日は、最初の野宿地に辿り着くのを目標にしよう」
「同意だ!」
「とりあえず、冒険者ギルドに行って情報収集だな」
しかし、ゲームは予定通りにはいかない。
冒険者ギルドのお姉さんから意外な話がある。
「第三祭にイベントがあります」




