第16話 F7:三人一緒! Con compagni!
風が窓を叩く。
木擦れの音が耳をくすぐる。
今日で指導も終わり、最終日だ。
教官の指導を受けながら、三人のパーティで戦う。
昨日はソロだったけど、今日はどうだろう?
集合場所の広場左端に向かう。
サヤとゲッツが軽く手を挙げて迎えてくれる。二人とも準備は十分なようだ。
こちらも手を挙げて応える。
三人並んで教官の所に向かう。
「よし、揃っているようだな」
御厨教官とボクの知らない教官が、二人連れで待っている。
「こちらは、ユルドゥズ教官だ。今日は二人で同行する」
「ファズル・ユルドゥズという。ゲッツの担当をしている。彼もなかなか優秀だが、君たちも実力は十分と聞いている。期待している」
目付きの鋭いがっつりタイプのお兄さん。ゲッツより大きな槍を持っている。前衛にしたら頼りになりそうだ。
「さて、出発しよう。君たちが先行してくれ。我々は居ないものとして行動して構わない。隊形なども自分たちのやり方でいい」
御厨教官の指示でボクたちから村の外に出る。
左は森林地帯、右は草原地帯、いつもの風景だ。
事前に話しておいた役割について、確認しながら位置取りをする。
「俺は前方を見張るので、アルフィ後ろは頼んだぞ」
「了解、後方からの奇襲は少ないと思うけど、十分注意する」
「わたしは、空中敵を見張る。弓はそういうのが得意だ」
「遠距離がいると便利だ。槍はどうしても飛んでるものには対処しにくいからな」
ゲッツ、サヤ、ボクの順で、警戒しながら進む。
「ふむ……」
教官が何か言っているようだが気にしないことにする。
突然の羽音! スズメバチと思った瞬間
サヤの弓弭が騒ぐ。
ハチは一瞬で空中に散る。
弓の威力は魔法とは異質だ。打撃は一点に集中するし、攻撃距離も長い。連射も利く。
ただ、状況判断力が問われると思うし、難しい職能だ。
スズメバチやオオヤンマが時々出て来るが、サヤの弓でほぼ一撃だ。
「これは楽だ。俺の出る幕がない」
「確かに敵との距離がある時の弓は強い。しかし奇襲を受けた時や敵に接近されると極端に弱い。そういう意味では癖の強い武器だと言える」
「接近する敵は、ボクが迎撃するよ」
「そうして貰えると有難い」
サヤの笑顔に少し和む。
前方から襲って来る二匹のミドリドクガエルを迎え撃つ。
「二重撃!」
サヤの弓から放たれた二本の矢が襲う。
破壊されたカエルが一気に消滅する。
残ったもう一匹のカエルが緑色の霧を吐く。
淡い霧となってゲッツに取り付く。毒?
迷わず解毒剤を使う。
薬剤瓶が頭上で割れ、緑の液体が散る。
「有難い!」
毒異常の解けたゲッツが槍を突き出す。
貫かれたカエルは黄色の光を出しながら消えて行く。
「弓のスキルって、すごい威力だね!」
「いや、ゲッツが上手く引き付けてくれた。落ち着いて狙えたのが大きい」
「引き付けただけで敵が溶けて行く。パーティ戦は久しぶりだが、効果の大きさを感じるな」
それから、周囲を警戒しながら少しずつ移動する。
滑空する獣を見掛けたけど、あれは何だったんだろう?
「さて、第四昼刻に入った頃だろう。昼食にしよう。それで野宿の準備をしてくれ。どういうやり方をするのか見たい」
御厨教官に言われて、野宿の場所を探す。
「さて、どうしよう?」
「森側は奇襲を受けやすい。草原側で乾いた場所が良いだろう」
サヤの意見は尤もなので、三人で探すことにする。
「あの辺はどうだ?」
ゲッツの声、背が高いと見通しも良いのか?
「あまり広くはないが、三人なら十分だろう。教官はないものとして良いと言われたからな」
ゲッツは先を急ぎ、土壁を造り始める。
「器用なもんだ」
サヤの声に、ゲッツは苦笑いで応える。
即席の陣地が出来上る。
「俺は、ソロが長いのでこういうことは良くやって来たのだ。この世界でも地魔法を優先して覚えている」
テント・パックを展開して確認している間に、ゲッツは竃まで造り上げる。
「鍋を持ってきたので、これを利用しよう」
「水は魔法で出せばいいよね」
ゲッツがテントを展開している間に、湯を沸かす。
茶葉はボクが準備して、お茶を淹れる。
「いやいや、移動中に温かいお茶が飲めるとは思わなかった」
「んじゃ、これもどうぞ」
「おお、乾燥果実か。アルフィは用意がいいな」
「行動中の甘いものは疲労対策に良い」
「でも疲労って状態異常あるのかな?」
「俺は疲労を感じるから、やはりあるのだと思う。毒でもかなりダメージがあったしな。この世界の状態異常は注意が必要だと思う」
状態異常は厄介だ。予想以上に影響が大きい。でもそれもゲームのうち、対策を考える必要がある。
「あー、なんだか心も身体も解れるような気がする。やっぱり緊張していたのかなぁ? 壁に囲まれていると安心感もあるし」
「確かに野宿は何処で必要になるか予想が付かないし、適当な場所がないこともあるだろう。こういう地魔法は考えて置く必要がありそうだ」
「それほど難しくはないぞ。俺で良ければ教えよう」
「よし、問題ない。撤収して戻ろう」
教官の指示で撤収を始める。
テントをたたみ、地魔法で造ったものも均して現状復帰する。
テキパキと片付けていたのだが、教官が独言のように言う。
「三人とも初心者のレベルではないな。この時期にこれだけのことができるのは、たぶんだが、他のゲームでかなり色々とやって来たのだろう。この世界に上手に適応して欲しいものだ」
戻る途中で事件は起きる。
数羽の鳥が襲って来る。黄赤っぽい背中で腹側が白い。
瞬時に、弓と石礫で叩き落としたのだが、何だか森の中が騒がしい。
「アカネモズだ。集団で襲って来る。気を付けろ!」
ユルドゥズ教官の声に合わせるかのように、数十羽の鳥が真直ぐ向かって来る。
弓の連射と石礫で迎え撃つ。
「近づくやつは俺が叩き落とす。飛び回るのは頼むぞ!」
「分かった!」
「了解!」
言っている間に鳥の数が増える。
「地の球!」
地魔法の球体を打ち上げる。衝突した鳥が次々に落ちて行く。
「予想通り、風属性みたい! 地魔法は有効だと思う」
「承知! 地の壁!」
ゲッツの地魔法が、三人の前方、腰から下辺りを守る様に展開される。
「サヤ! 少し見通し悪くなるけど、よろしく! 砂塵!」
砂を巻き上げて鳥たちの動きを撹乱する。
「問題ない! 矢の流星!」
打ち上げた矢束が炎を引きながら鳥群に襲いかかる。
ゲッツは槍を回すようにして鳥を次々に叩き落とす。
数十羽も撃破した頃だろうか、鳥の群は潮が引くように去って行く。
「ふう、なんとかなった」
「やっと引き上げてくれたか、やれやれだ」
「そう悲観することばかりじゃないぞ。奴等はごっそりアイテムを落として行った。大分稼げたようだ」
笑うゲッツはまだ余裕ありそうだ。
その後、大きな襲撃などなく、無事に村に戻り、今日の指導は終了した。
いよいよ卒業かぁ




