第二話 インビジブ粒②
4月9日(火)午後2時
「よし、あの担任の胸を揉め」
「フザけんなよ」
僕とハジメは職員室に来ていた。もちろん、ハジメはさっきの何とかと言う発明品を飲んではいないので、透明にはなっていないが、僕は透明のままだ。職員室に入ろうが、他の教師やそこにいる人々には、ここには「ハジメ一人だけがいて僕はいない」ように見えているのだろう。部活動見学をしている生徒が殆どなので、先生たちは割と職員室に居る。職員室と言うのは緊張する空間だ。僕が透明であるからではない。空間自体が何故か緊張の糸でつむがれているようだ。
「何をやっている、秋山の胸くらいどーんと揉んだれ。あたしの見たところによるとFはあるぞ」
「マジかよ。確かに僕のセンサーもそう告げている」
「センサー?」
「僕はブラジャーのカップに加え、アンダーの数値すら当てられる。あれは70のFだな」
「……流石にちょっとひくわ」
僕の目の前には担任の秋山先生がいる。秋山怜奈。年齢は良く解らないが二十代か、行っていても三十代だろう。モデルのような体型で出るところは出ているし、締まるところは締まっている。曲線は芸術だという言葉を聞いた事があるが、まさにそれだった。それでいてどこか少女のような面影を残すところが、また魅力的な部分の一つだろう。しかし90と言うと妖怪で言うとA級妖怪クラスじゃないか。結界通れないぞ。
「あたしにしか見えないんだから、大丈夫だって、目の前に立ってみ?」
「そ、そうか」
秋山先生の目の前に立ってみる。確かにこちらを全然見ない。
「立ってみって言ったけど、変な意味じゃないから」
「どんな意味だ」
秋山先生は数学のテキストを広げ、何かをやっている。授業の準備だろうか。
「どーせ見えないんだから、思いっきり揉んでやりゃーいいんだよ、ほれ、英一、はやくしろ」
「な、なんでだよ、大体なんで僕が揉まなきゃいけなんだよ」
「カッコつけやがって、本当は揉みたいんだろー」
はい、そうです。
よし、やってやる。あの大物男優だって現場の闘いで揉んで出世したんだ。フン、揉んじまえばこっちのもんよ!
と、その時だった。
「お、先生、問題作成ですかな」
「ん?」
秋山先生の横に誰か歩み寄って来た。誰だこいつ。僕はハジメの方を見る。
「あいつは、あれだ。金剛寺だ。金剛寺武蔵。」
「すげぇガタイだな。2mあんじゃね」
小声でぼそぼそと会話するが先生達には聞こえてはいないようだ。
金剛寺が秋山先生の横に立つと物凄く大きく見える。まるで山のようだ。秋山先生も身長は低くはないが、やはり横にも筋肉で幅がある金剛寺とやらとは比べ物にならない。
「あの山、何? 教師?」
「うん、そうだ。結構秋山につっかかってるところを見ると……惚れてるのかもな」
「ハジメ、なんでそんな詳しいの?」
「まぁ、なんだかんだでウチの社員だからな」
とりあえず胸を揉むのはやめて、様子を見ることにした。
「いやー、精が出ますな」
「ええ、でもこれくらいはやらないと」
細くてしなやかな指でそっと髪を耳の後ろに送る秋山先生。色っぽいしぐさだと思う。
「英一、精が出るって言うのは変な意味じゃないからね」
「誰もそんな事言ってねぇ」
「今日は夜までにはあがれそうですか? あの、もし良かったら、一緒にお食事でもどうです」
「え? ええっと……」
金剛寺はガタイの割には丁寧に秋山先生を誘っている。
「秋山のタイプじゃねーみたいだな。まぁ、そうか」
ハジメはそう言って二人を眺めている。
「秋山先生って結婚してんの?」
「知らん。してないんじゃないの」
「ふーん」
「またスケベな事考えただろ。このエロマシーンが」
「か、考えてないよ」
「しかし、秋山はしっかり断らないな、言ってやればいいのにな、ゴリラは山に帰れって」
「ものっすごい酷い事言うなぁ」
「よし、英一、助けてやれ」
「へ?」
「良く聞け」
ハジメの作戦はこうである。
まず、透明になっている僕が秋山先生の胸を揉む。そうすると秋山先生はいきなり金剛寺に胸をもまれたと思う。そうして秋山先生は金剛寺をぶん殴る。ゴリラは山に帰る。めでたしめでたし。
「そんなに上手くいくのか?」
「間違いない」
「よーし」
揉む事にした。だってそうだろう。大義名分が出来たのだから。
「え、えっと今日はちょっと……まだ問題作成がありますし」
「い、いつまでも待ちます!」
金剛寺は割と優しい性格なのかもしれない。優しいゴリラ。ゴリラのメスとかからは良くもてると思う。どう見ても格闘技をやっている体つきだ。強いオスはもてるのだろう。しかし、ここは人間のフィールドだ。僕がなんとかしてやろう。
そっと秋山先生の背後に近づく。甘い香りがした。香水は使ってないと思うが、いい匂いだ。美人は大抵いい匂いのような気がする。そっと手を後ろから伸ばし……
胸を揉んだ。
するとどうだろう、ぽよりと言う感触と共に、押し返すような弾力に富んだ物体ではないか。なんだ、これは。これがおっぱいと言う物なのか。こちらが少し押すと、まるで喜びを表すかのようにそっと押し返してくる。これは作用反作用だ。なんとも感情の溢れる作用反作用だ。透明になって先生の胸を揉む……頭がとけるような感触だ……おっぱいへ意識が集中しすぎて、オーバーロードしているのか? なのに、恐怖は感じない。むしろあたたかくて、安心を感じるとは。
「キャ、キャー!」
「なななな?」
秋山先生、おおきく振りかぶって、ビンタ。嗚呼、ゴリラ山が動いた。
「金剛寺先生、いきなりそう言う事をするなんて、どうかと思います」
「え? は? 私は何も」
「しらばっくれる気ですか」
「な、なんの事だか……」
「わ、わたしのお……おっ……も、もういいです」
「え? あ、ちょっと、秋山先生ぃ」
ちょっと可愛そうな気がしたが、まぁ、いいだろう、揉めたし。事をなした僕は颯爽とハジメの元へと帰還した。
「おかえり英一」
「やりましたよ大佐」
「良くやった。これで金剛寺も懲りるだろう」
「……純粋に愛してるだけなら、ちょっと悪い事をしたかな」
「もしそうならそれくらいではくじけないさ」
「金剛寺って体育でしょ? 体育会系なら回復もきっと早いよね、うん」
「誰が体育教師だって?」
「え? 金剛寺がさ」
「ああ、あいつは家庭科だ」
「あいつんち、鏡無いのかな……」
そうして、とぼとぼと。
僕らは廊下を歩いている。つやつやした廊下が独特の足音を跳ね返している。
「あ!」
「な、なんだよ」
ぼんやりとハジメのつむじの辺りを眺めて歩いていたら、ハジメがいきなり止まってこちらを睨み付けている。な、何かマズい事をしただろうか。いや、していないぞ。尻触ったわけでもないし……しかし、部活動で廊下に誰もいないからいいものの、僕は透明なわけだから、はたから見るとハジメが一人で騒いでいるように見えるのではないだろうか。
「なんかちょーっとイライラするなぁと思ったんだ」
「な、なんだよ、僕何もしてないぞ」
「あの子だよ!」
「あの子?」
「あの、ほら、あれだ。忘れた。あの美人のクラスメイト」
「悠木さん?」
「ああ! そいつだー、英一、なんか楽しそうに話してただろ!」
「え? まぁ、楽しいかどうかは知らんが、小学校一緒だったしな」
「庶民くせになまいきだ」
「庶民って」
「悠木は英一の何なのー」
「何って。別に友達だよ」
「嘘だ! あわよくば揉みたいと思ってるだろ!」
はい。
割と思ってました。それは否定しない。いつ何時、誰の乳でも揉みたい。
「お、思ってねーよ」
「嘘つき。友達に揉みたいって思うわけないだろ! 酷い! 英一はあたしのなのに」
「えー」
「あのベッドを濡らした夜の事を忘れたの!」
「そ、そんな事してねぇよ!」
「英一の血で……」
「なっ!? 何それ! こわいよ!」
「よーし、そうと決まれば女子寮までダーッシュ!」
「え、え? 何に決まったんだ」
良く解らないが走り出したハジメを追いかけていく。また女子寮か。まぁ、いいんだけど、どうせあそこで寝るんだし。しかし、僕、これ、いつになったら透明じゃなくなるのかな。
悠木さんも女子寮で暮らしているようだ。しかし、居るかどうかまでは僕には解らない。まだ部活動の見学に行ってるんじゃないかなぁ。案の定女子寮の中の人影はまばらで、やけに静かだ。しかし、ジャージを着た生徒が帰ってきてはいるので、居るかもしれない。
「悠木の部屋はどこーかなー」
「おい、ハジメ、何すんだよ」
「秘密」
スキップのような足取りでするすると前に進むハジメ。
「あー!」
「な、なんだよ」
「悠木の部屋あった。てか、隣か」
「と、隣だったのか」
僕とハジメの部屋のすぐ隣に、『悠木』『夜谷』と言う札が出ていた。寮は基本二人部屋なのだ。夜谷さんって人がルームメイトで、ここが悠木さんの部屋と見て間違いないだろう。夜谷ってなんかエロい。
「いーまーすかー」
トントン、と悠木さんの部屋の扉を叩くハジメ。
「悠木さんに何すんだよ」
「ごちゃごちゃうるさいな。悠木に英一は二本あるって言いまくるぞ」
「な、何が二本あるんだよ」
「あれ、ハジメちゃん」
あ、この声は。悠木さんだ。部屋の中からではなく、背後から聞こえた。振り返ってみると、悠木さんはジャージと何だかふわふわしたタオルを身につけていた。しっとりと汗ばんだ肌が艶かしく輝く。もっと汗をかいてブラジャーが透けるくらいになればいいのに。視線と会話から察するに、やはり僕の姿は見えていないようだ。
「あ、悠木だ」
「何かご用?」
「うん、ご用」
「どーぞ、と……夜谷さんいなければだけど……あ、いない。中に入って」
「あ、そんなに長くかかんないからいいよ」
「ん。そう」
「あのなー」
何を言うんだ、ハジメ。変な事を言ってくれるなよ。まぁ、いざとなれば僕は透明なわけだから、ハジメを引っ張ってどこかへ行けばいいか。
そんな僕の思いをよそに、ハジメはこほんと一つ咳をして、言った。
「あのな、英一の事好きか?」
「え? 英一君?」
な、何言ってんだ、ハジメ。思わず声を出しそうになったが、抑えた。ここは職員室と違って静かで、僕が声を出そうものなら、存在に気づかれてしまうからだ。
「あたしは英一が好きだ! 『お気に』だ!」
ハジメは何を言っているんだろう。思わずぼんやりとしてしまう。
「え、うん」
「悠木、お前も好きか?」
「え……?」
少しだけきょろきょろとしたあと、悠木さんは小さな声で言う。
「うん。好きよ」
「む、そうか。うーん、仲間、いや、ライバルだな!」
「そうかもね」
そういいながら微笑む悠木さん。
「でも英一は渡さないからな!」
「たまには貸して欲しいなァ」
「ダメ! あたしのなの。行くぞ英一」
な、名前を呼ぶな。悠木さんきょとんとしてるじゃないか。
「うん、また夜に。ハジメちゃん、一緒にごはん食べよ」
その場で頬を赤らめながら、悠木さんは手を振った。
「な、なんだよ、ハジメ。ああいうことやめろよ」
「なんだよー、いいじゃんかよー、あたしのものだってはっきりさせとかないと」
「いつお前のもんになったんだよ」
「英一があたしのぴんく色の綺麗な乳頭を触ってからだよ」
「乳頭言うな」
僕らは女子寮のすぐ外にあるベンチへとやってきていた。良く解らない形の彫像や、いまいちやる気の感じられない噴水がある静かな中庭だ。
「でも意外だったな、悠木も英一の事好きだって言ってた」
「ウヒヒ」
「気持ち悪い笑い方をするな」
いやー、やっぱり僕の良さと言うか、素敵さは解る人には解るんだなぁ。
「まぁ、これからはっきりさせていけばいいや。とにかく、『インビジブ粒』は成功だったみたいだし。流石はあたし」
「ああ、そうだなぁ。確かに透明になってるみたいだわ」
「英一ももっとすけべな事しまくればいいのに」
実際、ハジメがいなければ好き勝手やっているだろう。女子寮の中でブラジャーを発掘するくらいはわけも無い。スカートめくりとかも平気でするだろう。わりと透明じゃなくてもしていたが。
「何言ってんだよ、僕真面目だよ、超真面目君。エロイ事、しない。僕、しない」
「何で片言なんだよ」
「で、ハジメ、これいつ元にもどんの?」
「戻らないよ」
「ふーん、まだかぁ。……え?」
「戻らないよ? 一生」
「え……?」
中庭の景色の色が消えうせたような気がした。
「も、戻らない?」
「うん。だって透明になる薬だから……」
「な、マジ? いや、冗談だろ、冗談きついわ」
「なんで制限時間があると思ったの? あたしそんな事全然言ってない」
「え……嘘じゃねぇの」
ガラガラと何かが崩れ落ちるような音が、心の中から聞こえてくる。
「ホントだよ」
「え、え、じゃあ、僕の事見られるのは?」
「もう、あたしだけ」
「なんだよ……それ」
「いいじゃん、あたしの瞳の中で暮らしなよ。あたしはこの眼鏡かけてれば見られるから」
「そ、そんなの無いよ……冗談にもほどがあるだろ!」
「いいじゃん。ほら、スカートめくり放題だよ」
「う、うるさい! ハジメの馬鹿!」
僕は走り出していた。
「あー、英一、あのねー」
もうハジメの話なんか聞いてやらない。僕は本当にそんな発明品があるなんて思ってもいなかったから、安易に飲んだだけだったんだ。なのにこんな事になるなんて……
僕は一生この世界で、存在していない状態で存在し続けるのか。
平穏な元の生活には戻れない……
「先生! 先生!」
職員室へ来たものの、僕が見えないと言う事実は変わらない。秋山先生もきょろきょろとして、声のありかをさがそうとするが、見当たらないとなると気のせいね、みたいな顔をして仕事を続けている。どうすればいいんだ。……そうだ、もしかしたら、悠木さんなら解ってくれるかもしれない。僕の事を解って、なんとかしてくれるかもしれない。
僕は女子寮にある悠木さんの部屋の前まで走っていった。大きな足音が鳴るので生徒達は何だ? と言う顔をしているが、それ以上の事は理解しようとはしていないようだ。まだ部屋にいるかな、悠木さん。
「悠木さん、悠木さん」
こんこんと、扉をノックする。
「はーい」
良し、いるぞ。僕は乱れた息を整えながら、扉が開くのを待った。
「英一くん?」
扉が開くと共に、悠木さんが現れる。しかし、悠木さんはきょろきょろとして、『誰もいない事を確認』して、あれぇと言った顔をしている。ダメだ、このまま引き下がっちゃダメだ。
「僕だよ、英一だよ。悠木さん声が聞こえる?」
「え? うん、聞こえるけど……どこ?」
「うん、あのね、く、詳しく説明すると長くなっちゃうから簡単に言うけど、ハジメのせいで、今僕の身体が見えなくなってるんだ」
「え?」
「だから、僕、どうすればいいか解らなくて……」
「えっと、話が良く解らないんだけれど……ハジメちゃんは直せないの?」
「直らないって言うんだ! でも解って」
「うん、解った」
そうだよな、そんな事言われたってすぐ解ってくれるわけ……あれ?
「まだ夜谷さん帰ってきてないし、しばらくは私の部屋にいていいよ」
「え? ホント?」
「うん、ホント。あと落ち着いたらハジメちゃんに聞いてみよ、きっと方法はあるはずだよ」
なんだ、悠木さん。まるで天使じゃないか。見えないって事は何されるかも解らないというのに、こんなにあっさりと。良かった、とりあえず良く解らないこの状態を打破するために、悠木さんに相談に乗ってもらおう。うん、それがいい。
「英一!」
「あ、ハジメちゃん」
あ、ハジメが来た。猛烈な勢いでダッシュしている。そのまま目にも留まらぬ早業で……
「この浮気ものー!」
ハジメは腕を振り上げて、その勢いのままに僕の首めがけて飛び込んで来た。
「ヒギィ!」
僕は豚のような悲鳴をあげながら思う。ああ、知ってる、これ、あれだよ。
ラリアットだ。
僕の喉にハジメの細い腕が上手い事めりこんで、僕は思わずその場にうずくまる。うずくまり、咳き込む僕の脇腹から二本の細い腕が伸びてきて、僕をしっかりロックした。
「あ、あの、ハジメ……さん」
「何かな? 浮気ものの英一くん」
「ものっすっごい後ろから抱きつかれてるんだけど……これは、あれだよね、愛だよね」
「そうだね、愛だね」
「だよね、投げたりとかないよね」
「愛ゆえに投げる事もあるよね」
「えっと……下、コンクリだよね」
「ううん、これはリノリウムって言うんだよ」
「えっと……固いと思うんだ、僕は」
「せぇの!」
「えぇ!?」
浮かんだ。
僕の身体浮かんだ。
明らかに華奢なハジメの身体に、こんなに柔軟なバネが隠されていようとは。
僕はそのまま後ろ側に投げ出される。ああ、知ってる、これあれだよ。
スープレックスだよ
頭が、頭ってそう言う低音を出す楽器じゃないないんだよ、と言うような音を出して鳴ったような気がした。何故僕がこんな目に……
意識が朦朧とする。何か身体にされてるような気がするが……良く解らない。あれ、これ、何だかぐるぐる回っているような……足を掴まれて、ぐるぐる回っているような……ああ、知ってる、これ、あれだよ。
ジャイアントスイングだよ。
「は、ハジメちゃん! だ、ダメだよ! それ、英一君、えっと……バターになっちゃう! バターになっちゃう!」
だんだんと……意識が……なくなって……
……
「はっ!?」
目を覚ますと、そこはいつもの部屋だった。夢の中で悠木さんの叫び声が聞こえたような気がするが……気のせいだろうか。
横でハジメがごろごろしながら漫画を読んでいる。
「ハ、ハジメ……」
「あ。英一おはよ」
「えっと……何がどうなったんだっけ?」
「んー? ほら、英一が透明人間になって」
「ああ、うんうん……ああ! そうだよ! これからどうすればいいの僕! どうしたらいいか解らないよ!」
「哲学?」
「ちがうよ! 違うとも言い切れないけど! そうじゃないよ! 明らかにとうめ……い? あれ?」
「もう透明じゃないよ」
「ほ、ほんとだ」
本当だ。
僕の手は見えている。部屋にある小さな鏡に顔を映してみても、しっかり映った。それにハジメもあの変な眼鏡をかけていない。
「な、なんで? どうして?」
「打撃によるダメージが加わると、透明人間から元の状態に戻るの」
「へぇ」
「良かったね英一。大した怪我じゃなくて」
「え? ああ、まぁ……あれ、僕何されたっけ?」
「え? ああ、じゃあ覚えてないのか」
「……どゆこと?」
「いや、ラリアットのダメージで透明なのはすぐに戻ったんだけど、英一、浮気したじゃん。結構いろいろやっちゃったぁ」
「う、浮気って。別にハジメと付き合ってるわけじゃ……」
「あ、そう言う事言うの。フーン、そう」
「すみませんすみません」
「解ればよろしい。あ、あと悠木に感謝するんだねー」
「なんで?」
「悠木があたしのジャイアントスイング途中で止めたんだ」
良く解らないが、全体的に逆らわない方がいいらしい。可愛い顔してやる事は狂気だ。
■発明ナンバー102 インビジブ粒(追記) ■
透明になった身体を戻すためには、身体に一定のダメージを与えれば良い。ラリアット一発分が目安。